小峰さなえ

ひとりで着替えができるようにと、娘さんのためにボタンを工夫したのがきっかけで、障害のある人に使いやすいスモックやエプロンなどを手がけるようになった小峰さなえさん。トビラコの「できたショップ」でもスモックとエプロンを販売しています。

小峰さんの商品づくりの原点は「できた」体験を増やすこと。それはそのまま小峰さんの障害をもつ娘さんの子育ての話にもつながります。
喫茶室トビラコにお招きして、じっくりとお話をお聞きしました。

聞き手は編集者でライターの江頭恵子さん。
江頭さんは、ベストセラー『発達障害の僕が輝ける場所をみつけられた理由』(栗原類著 KADOKAWA)をはじめ発達障害に関する著書を多数手がけています。




「できる」を増やしてあげたい

第1回

娘のために考えた大きなボタン

今回のお話のポイント

●障害があると「できる」ことが少なくなるので、「できた」体験を増やす工夫が必要。
●できそうなところから始める。「できた」という体験が一つでもあると自信になる。

 

むずかしいとすぐあきらめてしまうから、できそうなところから準備したんです

江頭

このスモック、デザインもかわいいですが、工夫がいっぱいですよね。

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小峰

次女(希瑛さん)が小学校に入る時に、給食用のスモックを準備するように言われたんです。
その時「お父さんのワイシャツをアレンジしてボタンの練習をさせる人もいますよ」と聞きましたが、私は縫製が好きなので、スモックに大きめのボタンを付けて、ボタンホールとボタンの色を合わせて作ったのがきっかけです。

江頭

ボタンの練習は、それがはじめて?

小峰

そうですね。手先のことが苦手な子だったので、何か取り組まなきゃと思っていました。

江頭

大きなボタンにして、ボタンホールと色を合わせるという工夫は、小峰さんのアイデアですか?

 

大きめボタンタイプ

大きめボタンタイプ

 

小峰

はい。そうです。やらないといつまでもできないし、むずかしすぎると、すぐにあきらめてしまうんです。だから、本人が「できそうなもの」を準備してあげたいと思いました。

江頭

できそうなところから始めるというのは「スモールステップ」の考え方ですよね。療育の世界でもよく言われるんですが、発達を細かく見て、今の段階にあうサポートをすることが大切ですよね。

小峰

本当にそうです。市販のものを「はい、やろう」と言っても、先生方も教えるのが大変だし、本人も「できません」になってしまうでしょ。
「あれ?できそうかも」
というものを準備してあげることって大きい。いろいろ試して、すごく感じることです。

 

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小峰さんが作業療法士さんと試行錯誤しながら開発したボタン。ボタンの色とループやボタン穴を同色にしてかけ違いを防止。

 

「できた」体験があると、他のことも「やってみようかな?」という気持ちに

江頭

それは、スモックだけでなく、生活全般において言えることですか?

小峰

障害のあるお子さんは、どうしても「できる」ことが少なくなります。
だからこそ、いかにして「できる」を増やしてあげるかが大事だと思います。「できた」という経験が1つでも増えると、自信につながります。

江頭

障害のある子の話でなく、どんな子どもでも、大人にだってそうですよね。

小峰

「できた」体験を1つずつ増やしていくことで、経験の幅も広がります。
将来、大人になって、できないことにぶちあたったときも、どうしたら「できる」ようになるかを理解しやすくなります。

江頭

チャレンジもできるようになるということ?

小峰

はい。「できる」体験があると、他のことも「やってみようかな?」という気持ちになる。それが大事だと思います。

江頭

いきなり「サッカーをやるよー!」と言われたら腰がひけてしまいそうだけど、
まずは「ボールに触ってみよう」とか、
その子ができるところからやることなんですね。

小峰さんが工夫したボタンをとめる次女の希瑛さん(小学4年生当時)
写真:小峰さん提供

 

手先をうまく使えない子のための折り紙を試作中

小峰

ええ。じつは、スモックだけでなく、ふろしきやエプロン、そして折り紙の試作などもしているんですよ。

江頭

わぁ、折り紙。手先がうまく使えない子は苦手ですよね。そして、やりたがらない‥‥。

小峰

東京リハビリテーションサービスには、作業療法士、言語聴覚士、理学療法士、看護師など、療育の専門家がたくさんいます。療法士や看護師から、訪問看護、訪問療育をしている中で、今、利用者さんにとって必要だと思うものを聞き、それをもとにした試作品を次の訪問の時に試してもらったりと連携しています。

江頭

現場からあがってきた声をいかして、即、商品化できるんですね?

小峰

手先のことが苦手なお子さんは、例えば、折り紙だと紙の角と角を合わせて折るのが苦手です。だから、折り紙にミシン目を入れて、パタンと折りやすくしています。そして、順に折っていくと、飛行機やウサギなどができるわけです。

江頭

折り紙にもスモックのようなステップがあるのですか?

小峰

はい。ミシン目の間隔をあけたり、針を細くしたりすることで、徐々に指の力も使うようにしています。利用者さんの反応を見ながら、随時、微調整できるのがメリットだと思います。

取材・構成・文/江頭恵子 撮影/濱津和貴

(続く)

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第2回 必要なことは生活の中で覚える

第3回 自分の時間を大切にするとラクになる 

第4回 わが子にあった療育の選び方

第5回 周囲に知ってもらうと過ごしやすくなる

話し手:小峰さなえさん

株式会社東京リハビリテーションサービスの委託を受けて障害児・者向けの衣服等を考案し自身でミシンをかけて製作。次女が知的障害で手先のことが苦手だったことから扱いやすいボタンを使ったスモックを作り、知り合いに頼まれて作るうちに評判となり、お世話になっている作業療法士(日本医療科学大学の德永千尋先生)と共に開発し同社にて販売。

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聞き手:江頭恵子さん

フリー編集者、ライター。発達障害をテーマにした書籍が多い。
「発達障害の僕が輝ける場所をみつけられた理由」(栗原類著 KADOKAWA)
「育てにくい子にはわけがある」(木村順著 大月書店)
「これでわかる 自閉症とアスペルガー症候群」(田中康雄・木村順監修 成美堂出版)
「これでわかる 「気になる子」の育てかた」(木村順監修 成美堂出版)
「発達障害の子を理解して上手に育てる本 幼児期編」(木村順監修 小学館)
「「小学校で困ることを」を減らす親子遊び10」(木村順監修 小学館)
「発達が気になる子の「できる」を増やすからだ遊び」(笹田哲監修 小学館)
「発達支援実践講座 支援ハウツーの編み出し方」(木村順著 学苑社)
「なんだかうまくいかないのは女性の発達障害かもしれません」(星野仁彦 PHP研究所)
「発達障害に気づかない母親たち」(星野仁彦 PHP研究所)「4歳までの「ことば」を育てる語りかけ育児」(中川信子著 PHP研究所)
「子どもの発達に合わせたお母さんの語りかけ」(中川信子著 PHP研究所)
「子育てのモヤモヤ・ウツウツが晴れる本〜こころがラクになる考え方」(中川信子 伊藤郁子 花山美奈子 共著 PHP研究所)

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