ひとりで着替えができるようにと、娘さんのためにボタンを工夫したのがきっかけで、障害のある人に使いやすいスモックやエプロンなどを手がけるようになった小峰さなえさん。トビラコの「できたショップ」でもスモックとエプロンを販売しています。

小峰さんの商品づくりの原点は「できた」体験を増やすこと。それはそのまま小峰さんの障害をもつ娘さんの子育ての話にもつながります。
喫茶室トビラコにお招きして、じっくりとお話をお聞きしました。

聞き手は編集者でライターの江頭恵子さん。
江頭さんは、ベストセラー『発達障害の僕が輝ける場所をみつけられた理由』(栗原類著 KADOKAWA)をはじめ発達障害に関する著書を多数手がけています。

「できる」を増やしてあげたい

第2回 

必要なことは生活の中で覚える

今回のお話のポイント

●ボタンに集中するために、柄はあえてシンプルに。

●制服のワイシャツのボタンをスモックに使用している小さなボタンに変えたらひとりで着替えられるようになった。

●ボタンやファスナーは、布絵本や教材で練習するよりも実際に着たほうが身につく。

 

青い服しか着ないというご要望にも答えます

江頭

スモックは、前をとめるパターンがいろいろあるのですね。

小峰

はい。マジックテープ、ボタンをループにかけるもの、ボタンをボタンホールに通すものなどがあります。これらは同じ色同士を合わせることで、かけ違いのないように工夫しています。ファスナーは、手先のことが難しいお子さんでも引き手をうまく噛ませることができるつくりです。

 

 

スモック色展開

小峰さんのスケッチがこのような形になりました。

 

江頭

ボタンの工夫も素晴らしいですが、生地もおしゃれで素敵ですね。

小峰

スモックの生地は電車や車などの柄が入っていると、お子さんの視線が柄にいってしまうので、あえてシンプルに、情報を少なく、ぽわんとしたイメージの生地にしています。

江頭

そのさりげない感じが、今どきのシンプルファッションにもあってますね。

小峰

なかには「青い服しか着ない」というこだわりのあるお子さんもいらっしゃるので、そういう場合は、それぞれのご要望にお応えしてアレンジしています。

 

「これだったら、できるかな?」を手がかりに

 

江頭

希瑛ちゃん(きえ:小峰さんの次女)はどのスモックから練習したんですか?

小峰

希瑛はスナップボタンからはじめて、2.0cmの大きなボタンを経て、1.3cmのボタンへとステップアップしました。

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2cmの大きめのボタン。ボタンにはつまみやすいようにフチがあります。

 

江頭

スモック以外の服は自分でお着替えできたのですか?

小峰

中学生になった時、ワイシャツのボタンが小さくてツルツルしていてやりにくく、特に1番上のボタンは見えなくて「できません、やってください」状態だったんです。

江頭

朝は慌ただしくて、気持ちも焦りますものね。

小峰

それで、スモックに使用している小さなボタンにつけかえたら、「あれ?できるかも」と、取り組む姿勢が見えました。手助けしながらやり続けていたら、ある日ひとりで着替えられていて、「あれ?誰か手伝った?」と驚きました。

江頭

「これだったら、できるかな?」という手がかりが大事なんですね。

小峰

そうなんです、難しすぎるとあきらめてしまいますから。市販のファスナーは難しいので、学校では、先生が金具をはめて途中まであげてから「ここから、どうぞ」となるらしい。それだと、いつまでも人の手が必要になります。

江頭

確かに。それだと自立の道が遠くなりますね。

 

教材よりも生活習慣にするほうが身につく

 

小峰

どうにかできないかな?と思い、美術用のスモックにファスナーをつけて練習をはじめました。でも、右手で裾を持って支えながらファスナーを引き上げることが理解できなくて。裾のところを持つことができないんです。その時、作業療法士の先生に「裾のところに紐をつけたら?」と言われたんです。

江頭

目印になりそうですね。

小峰

はい。持つ部分を分かりやすく、目印に。それと、そのとき、たまたま玉(ループエンド)をもっていたので、紐に玉を通して一緒に縫い付けたら、いい具合に指が引っ掛かりストッパーにもなって、ファスナーを引き上げられるようになりました。

 

江頭

要領がつかめれば、他も応用がききますか?

小峰

はい。今は玉がなくても、手元を見なくてもファスナーが上げられるので、自分で着替えられるようになりました。

江頭

よく布絵本や教材的なもので、ボタンの練習をしますが、それより実践がいいのかしら?

小峰

「衣食住」といった生活習慣の中で、実践を通してやる方が身につくと思います。

江頭

私の息子も小さい頃から不器用で、着替えや靴を履くのも上手にできないから、いつも「ママ、やって」でした。2歳頃のイヤイヤ期には「自分で、自分で」の時期があるというけど、それがないのが不安でした。

小峰

難しいもので練習するより、補助的なものをつけて、「自分でできる」ということを実感できることが大事ですね。着るものは特にわかりやすいようです。

続く

第1回  娘のために考えた大きなボタン

第3回 自分の時間を大切にするとラクになる

第4回 わが子にあった療育の選び方

第5回 周囲に知ってもらうと過ごしやすくなる

話し手:小峰さなえさん

株式会社東京リハビリテーションサービスの委託を受けて障害児・者向けの衣服等を考案し自身でミシンをかけて製作。次女が知的障害で手先のことが苦手だったことから扱いやすいボタンを使ったスモックを作り、知り合いに頼まれて作るうちに評判となり、お世話になっている作業療法士(日本医療科学大学の德永千尋先生)と共に開発し同社にて販売。

 

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聞き手:江頭恵子さん

フリー編集者、ライター。発達障害をテーマにした書籍が多い。

「発達障害の僕が輝ける場所をみつけられた理由」(栗原類著 KADOKAWA)
「育てにくい子にはわけがある」(木村順著 大月書店)
「これでわかる 自閉症とアスペルガー症候群」(田中康雄・木村順監修 成美堂出版)
「これでわかる 「気になる子」の育てかた」(木村順監修 成美堂出版)
「発達障害の子を理解して上手に育てる本 幼児期編」(木村順監修 小学館)
「「小学校で困ることを」を減らす親子遊び10」(木村順監修 小学館)
「発達が気になる子の「できる」を増やすからだ遊び」(笹田哲監修 小学館)
「発達支援実践講座 支援ハウツーの編み出し方」(木村順著 学苑社)
「なんだかうまくいかないのは女性の発達障害かもしれません」(星野仁彦 PHP研究所)
「発達障害に気づかない母親たち」(星野仁彦 PHP研究所)「4歳までの「ことば」を育てる語りかけ育児」(中川信子著 PHP研究所)
「子どもの発達に合わせたお母さんの語りかけ」(中川信子著 PHP研究所)
「子育てのモヤモヤ・ウツウツが晴れる本~こころがラクになる考え方」(中川信子 伊藤郁子 花山美奈子 共著 PHP研究所)

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