
ひとりで着替えができるようにと、娘さんのためにボタンを工夫したのがきっかけで、障害のある人に使いやすいスモックやエプロンなどを手がけるようになった小峰さなえさん。トビラコの「できたショップ」でもスモックとエプロンを販売しています。
小峰さんの商品づくりの原点は「できた」体験を増やすこと。それはそのまま小峰さんの障害をもつ娘さんの子育ての話にもつながります。
喫茶室トビラコにお招きして、じっくりとお話をお聞きしました。
聞き手は編集者でライターの江頭恵子さん。
江頭さんは、ベストセラー『発達障害の僕が輝ける場所をみつけられた理由』(栗原類著 KADOKAWA)をはじめ発達障害に関する著書を多数手がけています。
「できる」を増やしてあげたい
自分の時間を大切にするとラクになる
今回のお話のポイント
●育児ノイローゼを心配され、周囲の視線がつらい時代があった。
●つらさを理解し聞いてくれる人がいて霧が晴れた。
●自分の時間を大切にするようになって変わった。
布団で横になると息ができなくなっていた娘
江頭
ところで、小峰さんはもともとどんなお仕事をなさっていたんですか?
小峰
小さい頃から縫製が大好きで、母へのプレゼントもエプロンを作るくらいでした。大学も被服科に進み、縫製の仕事をしていました。ウエディングドレスも作りました。

ハートブリッヂ エプロンも小峰さんが1点1点ミシンをかけています。
江頭
わぁ、素敵。私は保育園の通園バッグも自分で作れず、人任せでした(笑)。
小峰
ウエディングドレスのコーディネーターを2年やり、結婚して、子どもができて主婦になりました。希瑛(きえ)は2番目ですが、子育てが大変で、仕事どころではなかったです。
江頭
ダウン症のお子さんは、発達がゆっくりで、合併症があることがあると聞きますが、希瑛ちゃんの場合は?
小峰
希瑛は咽頭軟化症を持っていて、生まれて最初の半年は、布団に寝かせられず、ずっと抱っこの状態でした。横に寝かせると呼吸ができなくなるんです。
江頭
えぇ?ママも寝られないまま?
小峰
九州の母に出てきてもらい、夜中は交代で寝ました。チャイルドシートに寝かせたり、布団を重ねて角度をつけたり、ソファーで抱っこして寝かせることが多かったです。
江頭
どれくらいまで続いたのですか?
小峰
2歳半くらいまで、30分は布団で寝るけど息ができなくなって起きて、息を整えて、また30分後には起きての状態でした。
江頭
わぁ、大変。
「大変ね」という周囲の目がつらかった
小峰
周囲からも、このままではノイローゼになるよと言われ、睡眠障害専門の病院にいき、ホルモンの調整をしたりして。やっと4歳くらいから布団で眠れるようになりました。もう、あの頃には戻りたくないです(笑)。
江頭
集団生活は幼稚園からですか?
小峰
健常児とも触れあう機会がほしいと思い、福祉センターに3日、幼稚園に2日の割合で通いました。お姉ちゃんも通っていた園で先生たちは顔見知りでしたが、周囲の「大変ね」という視線がつらかったです。
江頭
そうですか。
小峰
小さい子は素直だから、「え?この子どういう子なの?」という視線で見られます。それが負担に感じることもありました。
江頭
今の小峰さんからは想像できません。
「あなた達にはできないでしょ」と思っちゃいなよと、言われて
小峰
幼稚園に入って少し経った頃、親戚に自閉症のお子さんと接する仕事をしている人がいて、その人に話を聞いてもらったんです。
江頭
どんな話をしたんですか?
小峰
私はこんなことがつらい、周りの人たちのこういう態度が気になると訴えました。そこで、「そうだよね」と受け入れてもらえて。すると、霧が晴れるように気持ちが切り替わったんです。

現在、特別支援学校中等部の希瑛(きえ)さんお気に入りのCDプレーヤー。寝る前、リラックスする時、体のマッサージをする時の必需品。昭和の曲から最近のJ-POP、そして洋楽まで、スピーカーに耳を付けて聞くほど。
江頭
それまで、話をできる相手がいなかったのでしょうか?
小峰
夫や母などに聞いてもらってはいても、やはり子育ての中心は私だし、責任感もあった。一生懸命やろうという気持ちが強すぎたのかもしれませんね。
江頭
どんな言葉をくださったのですか?
小峰
そんな視線を向ける人は、そういう人なんだよ。さなえちゃんはこんなに頑張っているんだから、「あなた達にはできないでしょ!」と思っちゃいなよ。と言われました。
江頭
なるほど。
小峰
それを、全然わかっていない人から言われたら、私は響かなかったと思うけど、おそらく、そこがすごくわかってもらえているなとわかったので、心に詰まっていたものが、ストンと落ちたんです。
江頭
それで、変われたんですね。
小峰
人目を気にして肩身の狭い生活をしていましたが、「私、頑張ってるし、いいんだ」と思えたら、運動会などでも、「大丈夫」と思えるようになり、気持ちが晴れました。
江頭
仕事の再開もその頃ですか?
小峰
私は縫製が大好き。子どものことだけに特化していくと、生活がどんどん大変になる。自分の時間も大事にしたくて始めました。
江頭
母親も自分の時間や自分の好きなことを人生の中に持ち続けるって大事ですね。
小峰
それがストレス発散。いまも納品のために何十着も作った後に、休めばいいのに、すぐに自分の物を縫いたくなるんです(笑)
続く