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(本日配信のメルマガの一部を転載しております)
二次障害という言葉をお聞きになったことがある方も多いでしょう。
発達障害を抱えた子が、思春期を迎えたときにさまざまなトラブルを抱えてしまう状態です。具体的には、人間関係のトラブル、不登校、自傷行為など。細かなところは専門家によって違いはあるものの、おおむねこのようなことだと思います。
とくに、自閉スペクトラム症の子は、思春期にうつ病、不安障害などの精神疾患を発症しやすいということはよく知られています。
そこに加えて、次の2つの要因から二次障害が引き起こされるようです。
1. 思春期に至るまでの過程で自尊心をなくしてしまった。
2. 環境の急激な変化に対応できない。
まずひとつめ。
障害の特性が理解されていないと、「頑張ればできる」「他の子と同じように」と、無理をさせてしまいがちです。できないと叱責されたり、「努力不足」「わがまま」「なまけもの」のレッテルが貼られてしまいます。その結果、自尊心が傷つけられて「自分は何をやってもダメ」と思い込んでしまいます。
精神科医の本田秀夫先生は、思春期にまでに自尊心を「貯金」しておくことを強くすすめています。幼い頃から周囲が特性を理解して配慮すると「自尊心の貯金」ができ、社会にでてもくじけにくくなるといいます。
具体的な「貯金」の仕方は次の通り。
幼児期
1)お手伝いで役割を与えて、認められる機会をつくる。
2)生活リズムを一定にして時間感覚を養う。
発達障害の子は昼夜逆転になりがち、土日も必ず同じ時間に起きるように。
小学校時代
1)得意なことは好きなだけ、苦手なことは無理強いしない。
苦手なことは定形発達の子の何十倍もの努力が必要。それよりは成功体験を積み上げて自信をつけさせる。
2)無理やり挨拶させない。声をかけられたら返事する程度で十分。
挨拶の意味がわからないうちに、無理やりさせるとイヤな思いが残るだけ。向こうから声をかけられてあいさつできれば、それで十分。
3)学校以外の居場所をつくる。
自分が心地よくいられる場所を。学校でなにかあっても、逃げ場があると救われる。
ふたつめ。
自分を取り巻く環境の急激な変化に対応できないことが、引き金となって二次障害に至ることもあります。
中学に入ると教科担任になります。小学校では、原則ひとりの先生に教えてもらっていたのに、中学校では教科ごとに先生が変わります。また人によっては電車通学になることもあり、感覚過敏の子であれば、音や光、匂い、大勢の人との接触に耐えられなくなるかもしれません。
このように大きく環境が変わることは、自閉スペクトラム症の子にとっては強いストレスになります。
頑張ってなんとかなる問題ではありません。問題が大きくなる前に、スクールカウンセラーに相談してみましょう。この場合、親も連携することが大事。
通常は、スクールカウンセラーと1対1で情報はほかに漏らさないとなるわけですが、自閉スペクトラム症の子の場合は別です。まわりの大人が情報を共有することが大事。睡眠など家庭での生活態度と障害の特性が深く関わっているからです。
ただ、学校がどの程度理解してくれるかという問題があります。必ずしも発達障害への理解のある学校ばかりでありません。子どもがつらいめにあっても、登校を最優先に考える教師やスクールカウンセラーもいます。学校自体がストレスになって二次障害を引き起こすことがないとはいえないと思います。
学校がストレスになるようなら、登校の回数を減らしたり、不登校の選択もありです。学校は命を削る思いをしてまで行くようなところではありません。いまは、不登校でもN中・高等部のようなインターネットで学べる場もあります。
最後に自尊心をなくしてしまった子のお話を。
ある特別支援学校の先生から聞きました。
その男の子は、自閉スペクトラム症で、IQが高いため勉強はとてもよくできたそうです。難関高校に合格し、親の期待も高まるばかりで、いい大学への進学させることだけに関心は向いていました。ところが、彼はもともとコミュニケーションをうまくとることができません。勉強にしても、まわりもできるのでトップでいることは難しくなります。教師とぶつかり、同級生からのいじめにあい、不登校になってしまいました。
不登校になってからは、昼夜逆転の生活となり、次第に言動も荒れていったといいます。あるとき、母親が息子の部屋のゴミ箱から大変な絵を発見してしまいます。
自分の首を切り落とした絵、教室で首をつっている自分の絵。描かれているのはすべて自分の存在を消してしまうような残虐な絵ばかり。
心配した母親が、その先生のところに相談しにきたのでした。
先生が彼と話しても、もっとも気になったのは「どうぜ、ぼくは価値のない人間ですから」を連発することでした。なにかというと、「どうせ、ぼくは」という言葉が口をついてでてきます。
どうしたものかと考えた先生。彼に何か役割を与えようと考え、学校で自分の助手のようなことをしてもらいました。でも、最初の2、3回で来なくなってしまいました。そこで、彼と二人でなにかやったらいいのではないかと、いろいろなゲームやらアクティビティを試したのですが、どれも長続きはしません。そこで、先生はある心理ゲームを思いつきました。
カードに書かれた質問に答えるという、とてもシンプルなゲームです。
「いままで見た景色でいちばん美しかったのは?」
「10年後の自分に会ったらなんて言いたい?」
「1日だけ魔法が使えるとしたら何をする?」
というような質問です。カードを引いた側が答え、相手もひたすら聴くだけです。それだけのゲームなのに、彼ははまりました。
先生が、たまには違うのをやろうとしても、彼は「先生、あのゲームやろうよ」と自分から言い出したそうです。
彼が望んでいたのは役割を与えられること以前に、自分の気持ちを聞いてもらうことだったのです。
といっても、最初からそうだったわけではありません。最初のうちは、斜に構えて、つまらなそうに答えていたそうです。でも、先生が答える番になると「小学2年生のときに、教室でうんこ漏らしたことがある」とか「肌が黒かったから、黒ちゃんと呼ばれるのが嫌で嫌で」というな話をしていくうちには、彼の態度が変わりました。「先生、そんなこと、人に話していいんですか」と聞いたそうです。先生は「いいんだよ、これは2人の秘密だから」と答えました。
彼は、これまで自分の失敗を人に話してはいけないと思い込んでいたといいます。でも、そこからは、堰を切ったように、彼の口から教師や親への不満や憎しみが溢れてきたそうです。そうして、話すだけ話すと「でも、先生も親も、俺みたいなのを相手にするのは大変だったと思う」と客観的に見ることができるようになりました。
その後、彼は大学には行かずに、人とあまり接しないですむ軽作業の仕事をするようになったそうです。
自分の障害の特性を理解してもらえなかった子が、二次障害を引きおこし、相談員にだけは心開くという話は、ときどき聞きます。相談員が良き理解者であることももちろん大きいでしょう。でも、それ以上に自分の気持ちを聞いてくれる人がようやく現れたのです。思春期に至って二次障害を引き起こすまで、だれも自分を理解してくれる人がいなかったということでもあるわけです。
(参考文献:『発達障害 あんし子育てガイド』tobiraco編 小学館)
トビラコ店主
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