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2023.10.03

トビラコへ、ようこそ。

~店先で、ちょこっとおしゃべり~

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「『言えない言葉』に思いを寄せて」というタイトルで、重度知的障害で発語がほとんどなかった(今は少しあります)妹のことを、「子どもの発達支援を考えるSTの会」の会報誌に寄稿しました。10月末ごろに発行になるそうです。
 
ST(言語聴覚士)さんが読者層なので、言葉の不思議さについて思うところを書いています。「言葉の不思議さ」といっても、深遠な話ではありません。発語のない妹が、なぜ、私たちが言っていることを理解できているのかという不思議さです。
 
このたとえがふさわしいかどうかわかりませんが、フランス語が話せない私はフランス語を聞いたところで理解できません。でも、妹は話せないのに、話の内容は理解できています。
 
一例を挙げると、検査入院した時のこと。「明日はお風呂の日だよ」というとちゃんと覚えていて、寝る前にシャンプーと石鹸を入れた洗面器を足元の棚に入れて寝ていました。
 
歯医者さんに連れて行く車の中で「歯の治療が終わったら、コーヒー飲もうね」というと、帰り道にドトールの前で私の手を引きます。
 
話せないのに理解できることの謎を解いてくれたのが、『ことばの不自由な人をよく知る本』(中川信子・阿部厚仁監修 合同出版)でした。この本は、ほんとうに良い本でおすすめです。私が胸打たれたのは、「言える言葉は氷山の一角」というコラムでした。
 
言葉は氷山のようなもので、「言える言葉(目にみえる部分)」は氷山の一角なのだそうです。氷山の一角を支えている水面下に「言葉を知っている」「言葉を理解できている」などがあります。このくだりを読んで、私は思わず泣けてきました。妹の言葉の氷山は、目にみえる部分はほんのわずかでも、水面下の「言葉は知っていて、理解もできている」は確実に育っていたのでした。
 
たとえ妹の発語がなかったとしても話しかけてきてよかった、とも思いました。返事や感想を述べてくれなくても、水面下に染み込んでいったのではないか、水面下で返事をし感想も述べていたのかもしれません。
 
昨日、子どもの発達支援を考えるSTの会の代表でもある言語聴覚士の中川信子さんから、私の寄稿の感想を寄せていただきました。中川信子さんによると、「花が咲くには茎も根も必要」という考え方は子どもST業界では行き渡っているけど、一般の人は届いていなかったんですね、と書かれていました。説明するのもヤボですが、目にみえる花=言える言葉、茎や根=言葉がわかる、理解している、です。
 
氷山の一角、あるいは目にみえる花だけを問題にするのではなく、水面下や茎と根の部分をどれだけ育てるかですね。それが、おそらく体験であり、話しかけることなんだと思います。

 
 

トビラコ店主

 

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