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できないことではなく、できることや好きなことに注目して伸ばす子育て。
この究極が『ぼくは数式で宇宙の美しさを伝えたい』(クリスティン・バーネット著 角川文庫 2018)の著者クリスティーン・バーネットの子育てではないでしょうか。
あ、あの天才児の話ね、うちには関係ないと思わず、まあ聞いてください。
クリスティーンの息子ジェイクは、2歳で重度の自閉症と診断され、訓練士からも特別支援教育の教師からも、この先、彼はアルファベットを読めるようになることはない。将来これ以上知的能力が伸びることはないと言われました。
これを聞いて絶望しない親がいるでしょうか。クリスティーンは、車の中で泣き崩れ目の前が見えなくなりました。それでも彼女はジェイクに療育に明け暮れる毎日を送らせます。しかしジェイクは、療育にはほとんど興味を示そうとしませんでした。
あるときクリスティーンは気づきました。療育の課題をこなすことばかりさせて、ジェイクに子どもらしい時間を過ごさせていないことに。
そこで、クリスティーンはジェイクを夜の海に連れて行き、星を見せました。昼間は療育に時間をとられていたから、必然的に夜になりました。
以下本書より引用します。
ジェイクは文字通り星に釘付けになっていました。セラピーを開始して以来、こんなにリラックスして幸せそうな彼を見るのははじめてでした。
(中略)
課題をもう1時間やるか、裏庭でタンポポの綿毛を吹きっこするか迷った時は、かならずタンポポをとるようにしました。この選択こそがジェイクがこちらの世界に戻ってきてくれるきっかけになったと、私はいまでも信じています。
(引用終わり)
「こちらの世界に戻ってきた」というのは、ジェイクは1歳半までは、まわりの年上の子供たちに可愛がられ、ことばを話し、驚くことに耳にした外国語(日本語も)をそのまま話せたのです。それが、だんだんと人に興味を示さなくなり、発語もなくなっていきました。まるで別の暗い世界に閉じ込められたように。
クリスティーンが本書で何度となく伝えているのは「直感」を大事にしたということです。夜の海に連れて行って星をみせたのも、課題をこなすことよりもたんぽぽの綿毛吹きで遊ばせたのも、直感です。
ジェイクの興味は、他の同年代の子とはだいぶ違うものでした。たとえば、光を通して映る自分の影を飽きることなく眺めていたり。絨毯の幾何学模様をものすごい集中力で眺めて綿棒で再現したり。
ジェイクは、それをやめさせることなく、好きなことをさせることが、彼にとって最も大事と考えたのも直感でしょう。療育士たちはジェイクが興味を示したものよりも、自分が立てたプログラムに取り組ませることに関心が向いていました。ジェイクの興味には関心がなかったのです。このあたりは療育をさせる側の課題ですよね。
ジェイクはIQ189という天才児ですが、普通の子ができるようなことー2歳でバケツにボールを入れるとかーができず、でも普通の子ができないことー1歳半で初めて聞いたオルゴールの音色を1音も間違えずにピアノで再現、しかもピアノを弾くのも初めてーができる、いわば凸凹の極地にいるような子です。
一般的な療育が彼にあうはずがありません。療育士がしないことを、クリスティーンがしたからこそ、ジェイクは夢中になれる数学的な世界に自分の居場所を見つけ、自分らしく生きることができるようになりました。
ジェイクは9歳で大学に入学し相対性理論に取り組むようになっため、この天才の部分だけが着目されがちですが、じつは、子育ての極意が描かれているのが本書だと思います。
本書を遅ればせながら読んだのは、文庫の解説にお世話になった土井高徳さんが執筆されていたからです。土井さんは、日本で唯一の治療的里親として何人もの発達障害の子を育てています。土井さんの解説もまたすばらしいのですが、後日ご紹介しますね。
トビラコ店主
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トビラコ店主が小学館子育てサイトHugKumに執筆しました。
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