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障害のある子の親なら「親なきあと」の問題に無関心ではいられないと思います。
でも、同じくらい、いえそれ以上に「親あるうちにできること」が大事です。
が、その前に。「親なきあと」の問題が商売の道具にされてしまっているから気をつけてね、という話を。
ちょっと前までは「親なきあと」について語っていた人は少なく、その中でよく知られていたのは、渡部伸さん(行政書士、親なきあと相談室主宰)くらいでしょう。そんなに売れると思わなかったのか、渡部さんの親なきあとの本が電子書籍のみで出版されていたのが7年くらい前だったと思います。もしかしたら、もっと前だったかもしれません。
電子書籍で渡部さんが語っていたのは、心配しすぎるな、だけど公的な制度は押さえておいてね、ということだと思います。つまり親に無駄な不安を煽るようなことは書いていません。ご自身の娘さんが重度の自閉症で知的障害なので話に説得力があります。
ところが、この5年くらいで「親なきあと」問題のセミナーが頻繁に開催されるようになりました。参加費無料といいながら、セミナー後に有料の個別相談に誘導しファイナンシャルプランナーによる高額な保険の勧誘を行うところもあります。親の不安につけ込んだ商売ですよね。このようなセミナーは、高額保険に勧誘するための無料セミナーと思ったほうがいいかもしれません。
「親なきあと」問題のセミナーを受けるなら、基本的には公的なところ。自治体などが時々行っていたりもします。あるいは、長く活動している一般社団法人や親の会などですよね。
あとは、個人名になりますが、先ほどの渡部伸さん、そして福祉の現場と行政の橋渡し的な役割をしている又村あおいさんが登壇するセミナーです。又村さんは、内閣府で障害者差別解消法のアドバイザーも努め、福祉の最新の情報を常に発信している方です。マークしておくと良いと思います。
セミナーではなく、いい書籍もあります。書籍なら気になったときに読み返せます。渡部伸さんの『障害のある子が将来にわたって受けられるサービスのすべて』(渡部伸監修 自由国民社)がおすすめです。
ということで、「親なきあと」問題のセミナーは、親の不安につけこんだ商売になっているところもあるので気をつけて、という話でした。
ところで、「親なきあと」と「親あるうち」は地続きです。「親なきあと」問題は、制度的なことを知るとなんとかなります。でも、生活習慣や生活の自立、困ったときに誰かに助けを求められる力は、親あるうちにできることだし、しておいたほうがいい問題です。
重度の障害だと生活介護が前提になるので、ここでは省きます。中度から軽度の知的障害の子の話をしたいと思います。親が亡くなったとき、わが子が普段と変わらぬ生活習慣で生活できるようにしておくことがとても大事ではないでしょうか。
決まった時間に起きて、仕事にゆき、食事(できれば自炊で)をきちんととり、お風呂に入り、睡眠時間もちゃんと確保できるようにする。洗濯して清潔な服を着る。部屋の掃除、浴室やトイレの掃除もできるようにしておく。こうしたことは日々の生活の積み重ねで習慣になります。もうひとつ加えるなら、その子なりの趣味や楽しみの時間があるといいですよね。
一緒に暮らしていた母親が急死し、生活リズムが狂い精神疾患になった軽度知的障害の男性の話を読んで、やはり大事なのは「親あるうち」にできることだと思いました。
このケースでは、軽度知的障害の男性の独特のこだわりが思わぬ結果を生んでしまいました。
精神疾患に陥ったためカウンセラーが男性に話を聞くと、彼は母親から「お風呂に入ってからでないと寝てはだめ」と口を酸っぱくして言われていたそうです。カンセリングを受けていた当時の彼は、寝る時間がバラバラで生活が乱れ、入浴する時間がありませんでした。でも、「お風呂に入ってからでないと、寝てはダメ」だけは頑なに守り、入浴する時間がない→寝ることができない。こんな日が続いていたのでした。
「入浴は(できれば)寝る前に」という緩やかなものではなく「入浴しないと寝てはだめ」という守るべきルールになってしまっていたわけです。
規則正しい生活習慣を身につけるのと同時に、柔軟性も持たせる必要があるわけです。疲れた日はお風呂に入らないで寝たほうが良いとか。お風呂は毎日入らなくても良いとか。このようなことも、「親あるうちに」身につけておいてほしいことではないでしょうか。
久しぶりに『知的障害のある人への心理支援 思春期・青年期におけるメンタルヘルス』(下山真衣編著 学苑社 2022)を読み返して、親なき問題の前に、親あるうち問題が先だと感じました。
この話を読んで、昔、子育て雑誌編集者時代に取材した幼児教室の先生がおっしゃっていたことを思い出しました。
「今、自分(親)が死んでも、子どもが明日から生きていけいるようにするのが教育よ」と。
いわゆる小学校お受験塾だったのですが、この言葉は、親として今何をしたらいいかを端的に教えてくれていると思います。
トビラコ店主
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トビラコ店主が教育新聞に連載中
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