今回は、toiracoの療育アロマの開発者のひとり、アロマセラピストでもある薬剤師の久保浩子さんに参加していただき、マッサージの効果を具体的にお話ししていただきます。
 
 

発達障害の子にアロマという安心を

2回目


マッサージで落ち着く。

 
 
今回のお話のポイント

●聴覚過敏の子がアロマオイルマッサージでヘッドホンをはずす時間が増え、落ち着いた。

●アロマオイルは嗅覚過敏の子ほど効果があらわれやすい。

●マッサージをされるうちに、心地よい状態がわかるようになる。

 
tobiracoの療育アロマはこちら

 
半年間のマッサージで落ち着いた聴覚過敏の子。

江頭

朱クリニックには、今までにどのような特性を持つお子さんたちがいらっしゃったでしょうか?

久保

ソラアル(療育アロマを共同開発した放課後等デイ)さんからの紹介で聴覚過敏や触覚過敏などの特性をもったお子さんが来院されました。
 
聴覚過敏のお子さんは、人が発する甲高い声に敏感でいつもヘッドホンをつけていました。そのため外での集団活動が苦手で、慣れない場所ではいつも落ち着かない様子でした。
 
そのお子さんは、アロマオイルでトリートメントを続けるうちに、マッサージ中はヘッドホンをはずすようになりました。最初はじっと横になってマッサージを受けられる時間が10分程度だったのが、20分そして30分と少しずつ伸びていくようになりました。今では途中で眠ってしまったり、終わったあとも「まだ横になっていたい」と言ったり、リラックスした状態になっています。

江頭

そうなるまでにどれくらいの期間がかかったのでしょうか?

久保

隔週でトリートメントを受けにこられますが、変化があらわれたのは4ヶ月目くらいから。
 
周囲の咳やくしゃみの音、そして小さな子どもの泣き声などが苦手で、耳ふさぎをするような状態だったのですが、最近では「あ、誰か咳をしたね。でも平気だよ」と自分の状態を冷静に話せるようになりました。

江頭

聴覚過敏も改善できるということでしょうか?

久保

アロマのトリートメントで無意識にリラックス状態を体感することにより、普段の過敏性が全体的に抑えられ、苦手な音や感触に対してもパニックにならずに、対処できるようになるということだと思います。

感覚過敏だからより効果が現れやすいのです。
 

江頭

過敏といえば、香りが苦手な子はいませんか?

 

久保

発達障害の子には嗅覚過敏の子が確かにいますが、だからこそ、このアロマの効果が出やすいといえます。 
少し専門的な話になりますが、感覚の中でも嗅覚だけは特殊で、脳の大脳辺縁系という無意識レベルのところにまず情報が伝達されます。ここは大脳皮質からの潜在意識にコントロールされることがありません。
 
意識しなくてもふっと香りが受け入れられ、感情や記憶、自律神経系を介して体温調節や睡眠、呼吸などに変化があらわれるのです。嗅覚過敏だからこそ、その反応が顕著に現れます。逆に鈍麻な子の場合は、感覚を刺激して鍛えることができます。

江頭

たしかに、そうですよね。

 

closeup of mint trees in garden under sunshine


 

久保

香りは記憶に残るので、一度好印象を持った香りは、次に香りを嗅いだ時も心身に良い影響を与えます。子どもの好む香りで瞬時に感情や行動を調整できるようにしてあげるといいですね。
 
香りには快・不快に感じる種類、そして強さがあります。その日の体調や気分によっても違ってくるので、必ず「今日はこの香りでどう?」と確認するといいと思います。

江頭

触覚過敏のある子の中には、触られることを嫌がる子もいませんか?

久保

だから、はじめは触られても大丈夫なところ探しから始めます。「ここは大丈夫?」「ここは、気持ちいい?」と、少しずつ触らせてもらえるところを探す感じですね。
 
いくらマッサージがいいからといって、決して無理強いしないことが大事です。いやな印象にしたくないですからね。やり続けていくうちに、マッサージさせてもらえる範囲が広くなっていきます。

江頭

そうなると、子どもの側から「やってほしい」ということになるのですね?

久保

発達障害のある子たちは疲れやすい子が多いんです。足や足裏がパンパンになっていたり、お腹もはっていて便秘と下痢を繰り返したり。いつも何かに過敏で緊張状態にあるわけですから、常に神経をすり減らしているのです。
 
その緊張をときほどいて、ゆるめてあげる。ニュートラルな状態をつくれると心身に余裕ができてきます。
 
マッサージをやっていくうちに、子ども自身が「これをやると気持ちがいい」と気づくことが大事です。そうしていくうちに「こうしてほしい」と発することができるし、のちのちは、自分でできるようになってほしいですね。そこが目標です。

 

 

江頭

つねに緊張していたり、ぼんやりしている子どもたちは、心地よい体の状態がどんなものなのかを知らないでしょうからね。気持ちがよくて体の調子がよい状態をまず知ることが大事なのかもしれませんね。

久保

子どもが自分から「今日の体調はこうで、ここがつらいです」とは言えません。そもそも生まれつきだから、毎日がそんなものだと思ってつらさを抱えたままでいます。そんななかで「こんな状況もあるんだ」「こうすれば、楽になるんだ!」という発見があることが、親子アロマのテーマです。

 
続く。

1回目 緊張した脳と体をほぐす。それだけで変化があらわれます。

3回目 マッサージで深まる親子の絆。

4回目 「西洋医療」と「補完代替医療」のコラボレーション。

5回目 自立のためのアロマオイル。

薬剤師/IFA認定アロマセラピスト/IFA認定講師/日本アロマセラピー学会理事/医学博士
久保浩子

くぼ・ひろこ 共立薬科大学卒業後、㈱ツムラにて医療用漢方製剤の品質評価に携わる。渡英しアロマセラピーを学び、英国IFA認定資格を取得。リフレクソロジーやリンパトレナージュなどの補完代替療法も学ぶ。2005年より「オリエンタル・アロマセラピィ・カレッジ」副校長を務め、メディカル・アロマセラピストの育成に努める。2015年昭和大学大学院医学研究科修了、ラベンダー精油の研究で博士号を取得。

閉じる
編集者、ライター
取材/構成/文 江頭恵子

えがしら・けいこ

フリー編集者、ライター。発達障害をテーマにした書籍が多い。
「発達障害の僕が輝ける場所をみつけられた理由」(栗原類著 KADOKAWA)15歳のコーヒー屋さん 発達障害のぼくができることから ぼくにしかできないことへ」(岩野響著 KADOKAWA)「育てにくい子にはわけがある」(木村順著 大月書店)「これでわかる 自閉症とアスペルガー症候群」(田中康雄・木村順監修 成美堂出版)「これでわかる 「気になる子」の育てかた」(木村順監修 成美堂出版)「発達障害の子を理解して上手に育てる本 幼児期編」(木村順監修 小学館)「「小学校で困ることを」を減らす親子遊び10」(木村順監修 小学館)「発達が気になる子の「できる」を増やすからだ遊び」(笹田哲監修 小学館)「発達支援実践講座 支援ハウツーの編み出し方」(木村順著 学苑社)「なんだかうまくいかないのは女性の発達障害かもしれません」(星野仁彦 PHP研究所)「発達障害に気づかない母親たち」(星野仁彦 PHP研究所)「4歳までの「ことば」を育てる語りかけ育児」(中川信子著 PHP研究所)「子どもの発達に合わせたお母さんの語りかけ」(中川信子著 PHP研究所)「子育てのモヤモヤ・ウツウツが晴れる本〜こころがラクになる考え方」(中川信子 伊藤郁子 花山美奈子共著 PHP研究所)

閉じる