療育とは、その子がよりよく生きることができるようになるための手助け。アロマオイルはまさに療育としてもっと活用してほしいと話す朱先生。

発達障害の子にアロマという安心を

5回


自立のためのアロマオイル。

 

今回のお話のポイント

●アロマセラピーは自律神経を整えて自己修復力を高め、不調を改善することができる。

●アロマは子育てで疲れているお母さんにも使ってほしい。

●自分をリラックスさせるために、子どもが自分で香りを活用できるようになってほしい。

●自分で自分の気持ちを調整することが自立につながる。
 
 

 
 
大学病院の皮膚科で治らなかった足の潰瘍がマッサージで治癒。
 
 

江頭

アロマセラピーで、治療ができるのですか?

医療とか治療とかいうと、かならず「エビデンスはあるのか?」という話になりますが、アロマセラピーは病気に直接作用するわけではなく、心地よく快適なことを続けることで、人が本来備えている自己治癒力が高まり、徐々に調子がよくなるというものです。そういう意味では最も望ましい治療と言えます。エビデンスという客観的科学的検証をアロマに求めるのは難しいでしょう。

江頭

マッサージをすると、オキシトシンという幸せホルモンが分泌されると聞いたことがありますが、データとして示すのは難しいのでしょうね。

うちのクリニックでは、病気の見落としがないように西洋医学のフィルターはかけながら、必要に応じて、さまざまな補完療法を行います。
 
手術や薬が必要な人もいるけれど、補完療法で状態を良くしていけば、薬を減らせるし、手術も減らせて、結果患者さんのQOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)があがります。
 
ある85 歳のおばあちゃんは、足が冷たく血行不良のため、足、足趾に潰瘍ができていました。大学病院に通い軟膏治療をしていましたが、軟膏を塗ったところで血行はよくならず、改善もしない。そこで、毎日10分間キャリアオイルでマッサージをしたら、4か月できれいになおりました。やはり「手当て」が大事であることを痛感しました。

*キャリアオイル・・・精油を希釈して使う時のベースとなるオイル。精油を皮膚に運ぶ役(キャリア)を担うので、こう呼ばれる。ベースオイルとも呼ばれる。植物の種などを圧搾したオイルで、それ自体にも保湿や皮膚を柔軟にする効果がある。
 
 

江頭

表面的な対処療法でなく、根本をよくしたということですね。つい目に見える症状を保険がきく薬で、経過を見ようとなりがちですが、その原因を探って直さないと、結局はまた具合が悪くなったり痛くなったりしてしまうということなんですね。

 
 

 
 

人間とは機械ではなく動物です。壊れた部分を修理するだけでなく、整えていけば、本来の人間が持ち備えている自己修復力が働くはずなのです。
 
東洋医学ではよく、「中庸(ちゅうよう)」が大事といいますが、力を抜いてニュートラルにして自己修復システムがちゃんと機能していれば、そんなに具合が悪くならないはずなのです。
 
そのようにするためには西洋医学だけでは難しいから、いろいろな療法を取り入れながら、試行錯誤をしているのです。

 

Bunch of fresh ripe lemons on a lemon tree branch in sunny garden


 
 

自分を落ち着かせるためにアロマを使える子に。
 
 

江頭

ほかに、アロマセラピーが効果を発揮するのはどんなケースでしょうか?

統合医療は、この患者さんには、どうすることが必要なのかを考え、工夫することから始まります。
 
ひとりひとりの患者さんの、その時の状態に合わせて、鍼灸、温熱、アロマなどを選びます。その人がすごく冷えているなら温熱療法や漢方だけど、メンタル、自律神経の不調による症状にはアロマがいいでしょうね。

江頭

香りで癒されるということでしょうか?

たとえば、子育て中のお母さんは、疲れている人が多いですね。ゆっくり休める時間がなく、子供に常にふりまわされ、ストレスの重積状態となるから首から肩がパンパン。
 
そこで、アロマを使うと芳香浴とマッサージの両方の効果で力が抜けてこわばった筋肉もゆるみリラックスできます。すると、自律神経の働きが整い、凝りや張りなどの不調をほぐすことができるのはもちろん、血圧を下げたり、便通がよくなったり、睡眠の質がよくなるなど、副次的にさまざまな効果が期待できます。

 

江頭

障害のあるお子さんのお母さんは、将来への不安などから、きっとストレスも多いでしょう。お母さんもリラックスできるというのはいいですね。

 

そうです。障害のあるお子さんの親御さんは常にリラックスした精神状態でいていただくことが大事です。さらには、子ども自身が、自分をリラックスさせるために、香りを活用してほしいと思っています。
 
たとえば運動会で、自分の順番を待つ間に、緊張からパニックになってしまっていた子が、アロマパッチ(ピタッとアロマ)に自分の好きな香りをつけて体操服の裏に貼っておくことで、香りをかいで落ち着いていられるようになるとか。
 
ランドセルの裏に貼っておいて、落ち着かなくなったら香りをかぐとか。子ども自身がアロマで自分をコントロールできるようになるのが目標です。一度、コントロールができるとわかると、その香りをかげば大丈夫だという自信となり、オイルを持っているだけで安心できるという、ひとつのいいサイクルができます。
 
 

江頭

アロマがお守りのようになるのですね。

 

そして、ゆくゆくは自分の気持ちや体調を調整できる方法を手に入れるということに。それが自立につながると私たちは考えています。

 

 

編集部

tobiracoの療育アロマを使っていただいているお客様から、お子さんが自分から「お守り」と言って使っているという声をいただきます。もっと広めてきたいと思います。今日は、ありがとうございました。

 
 

終わり。

1回目 緊張した脳と体をほぐす。それだけで変化があらわれます

2回目 マッサージで落ち着く。

3回目 マッサージで深まる親子の絆。

4回目 「西洋医療」と「補完代替医療」のコラボレーション。

統合医療「朱クリニック」院長/日本アロマセラピー学会認定医/日本外科学会認定医/日本消化器外科学会認定医/日本救急医学会認定医
朱永真

しゅ・えいしん

1982年 日本大学医学部卒業後、同大学医学部第一外科入局。1992年から5年間、日本大学板橋病院救命救急センター勤務。1999年西洋医学と補完代替医療を統合した医療をめざす朱クリニックを開院。2005年 「オリエンタル・アロマセラピィ・カレッジ」開校、講師、理事長兼任。統合医療の観点から発達障害の子どもたちに精油を使った「メディカル・アロマセラピィ」実践し成果を上げている。

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編集者・ライター
取材/構成/文 江頭恵子

えがしら・けいこ

フリー編集者、ライター。発達障害をテーマにした書籍が多い。
「発達障害の僕が輝ける場所をみつけられた理由」(栗原類著 KADOKAWA)「15歳のコーヒー屋さん 発達障害のぼくができることから ぼくにしかできないことへ」(岩野響著 KADOKAWA)「育てにくい子にはわけがある」(木村順著 大月書店)「これでわかる 自閉症とアスペルガー症候群」(田中康雄・木村順監修 成美堂出版)「これでわかる 「気になる子」の育てかた」(木村順監修 成美堂出版)「発達障害の子を理解して上手に育てる本 幼児期編」(木村順監修 小学館)「「小学校で困ることを」を減らす親子遊び10」(木村順監修 小学館)「発達が気になる子の「できる」を増やすからだ遊び」(笹田哲監修 小学館)「発達支援実践講座 支援ハウツーの編み出し方」(木村順著 学苑社)「なんだかうまくいかないのは女性の発達障害かもしれません」(星野仁彦 PHP研究所)「発達障害に気づかない母親たち」(星野仁彦 PHP研究所)「4歳までの「ことば」を育てる語りかけ育児」(中川信子著 PHP研究所)「子どもの発達に合わせたお母さんの語りかけ」(中川信子著 PHP研究所)「子育てのモヤモヤ・ウツウツが晴れる本~こころがラクになる考え方」(中川信子 伊藤郁子 花山美奈子 共著 PHP研究所)

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