オノマトペカードは、家庭でどのように使ったらいいのでしょうか?
後編は、家庭での活用法をお聞きしました。つい、私たちはカードで覚えさせようとしがちですが、「オノマトペカードは、おもちゃのひとつくらいに考えて気軽に楽しんでほしい」と石上さん。
言語聴覚士に聞く、ことばの育て方
覚えさせるのではなく
子どもの興味に添う。
——— 石上先生は教室で「オノマトペカード」をどのように使われているのでしょうか? お子さんの特性によって違いますか?
特性というより、お子さんの好みにあわせて使う、という感じです。初めて会ったお子さんなら、カードを見せながら「くんくん」「にんにん」と、ジェスチャーつきで聞いてもらいます。カードに手を伸ばしたら、渡してゆっくり見てもらったり。それぞれのカードを紹介するような感じですね。「次、どんなカードが来るかな?」と楽しみにしてくれるお子さんもいます。
中には「もういっかい!」と言ってくれる子もいて、好きなカードが出たら、言葉を真似したり、ジェスチャーを真似したりしてくれます。渡したカードを返してくれるのも大切なやりとりですし、並べる子がいたり、机の下に落とす子もいたり。その子によって反応は様々です。もちろん、最初はあまりカードに興味を示さないお子さんもいらっしゃいます。その時は、一枚ずつ見せるのはやめて、バラバラに散らばらせる遊びにしたり、ケーキを吹き消す「ふーっ」のカードでハッピーバースディの歌を歌ったりすると、楽しんでくれるお子さんもいます。
歯磨きの時に「しゅっしゅっ」のカード、食事の時に「ぱくぱく」のカードを
——— 家庭では、どのように使うとよいのでしょうか?
ご家庭では、もっといろいろな使い方ができますね。歯磨きの「しゅっしゅっ」のカードを洗面所に、「とんとん」をトイレのドアに貼っておいたり、「ぱくぱく」は食事の時に見せたり、行動とつなげるカードを使用することもできます。
カードに穴を空けてリングを通して外出の際に持ち歩くという方もいらっしゃいました。フォルダーに入れて絵本のようにして見せたり、並べたカードの音を読んで、カルタのように遊んでみたり。ご家庭でいろいろ使い方を工夫してくださっているようです。
大切なのは、言葉を覚えさせようと躍起になってカードを見せるなど、何かしらの思惑を持って使用しないこと。
何かさせようと思いながら使うと、思ったような反応をしてくれなかったときに、大人の方が勝手にがっかりしてしまいますよね。興味を持たないと思ったら、無理強いせず、しばらくお子さんの手の届くところに置いておいてもいいと思います。時々出してみると興味を示したりするので、あまり気負うことなく、「親子のコミュニケーションの楽しみを広げる」おもちゃのひとつぐらいの気持ちで使ってもらえると嬉しいです。
一人で悩まずに、専門機関を訪ねて。
子どもとコミュニケーションを楽しんでほしい
——— お子さんの発語を心配している親御さんに、アドバイスをいただけますか?
お子さんのおしゃべりがなかなか出てこないと、親御さんはとても心配だと思います。その背景に何があるかはお子さんにお会いしてみないとわからないので安易に大丈夫ですよとも言えませんが、まずご家庭でできる大切なことは、「ゆっくり、はっきり、みじかく」話すこと。お子さんが真似する時間、意味を考える時間をゆっくり待ってあげることです。
その上で、ご心配があれば、かかりつけの小児科や、地域の子育て支援センターなど、信頼できる場所にご相談されてみてはいかがでしょう。
そうすれば、心配がない場合も、何らかの配慮が必要な場合も、お子さんの状態を説明してもらえるのではないかと思います。発達の道筋のなかで、今はこういう段階にいる、ということが説明されたり、見通しを伝えられたりして安心できることもあると思います。
そもそも、聞こえているかどうかを確かめる
また、意外と見落とされているのが、「聞こえ」の問題です。発語がなかなか出てこないお子さんの場合は、ちゃんと聞こえているか?ということの確認がまず必要ですね。後ろから声をかけたときに振り向くか、好きな音楽が流れると小さな音でも気づくか、言葉だけで簡単な指示に応じることができるか、なども、目安になります。
いずれにせよ、お子さんの成長の形も、コミュニケーションの形も、ひとつではありません。言葉でやりとりすることに慣れた私たちが考えるような形ではなく、それぞれのお子さんにとって心地よいコミュニケーションを大切にしていくことが、お子さんの力になっていくのではないかと思います。
オノマトペカードの楽しみ方もひとつではありません!
それぞれのお子さん、ご家庭で、それぞれの使い方をしていただけたらと思います。
前編はこちら
石上さんの相談室にお子さんと通っていたママのインタビューはこちら
石上志保さんのオノマトペシリーズはこちら
取材・文/仲尾匡代 写真/壬生マリコ(合同会社まちとこ)