引き続き久保さんのお話。アロマオイルのマッサージは、聞けば聞くほどいいことづくめ。睡眠が深くなったり。子どもとの関係が親密になったり。今回は、そのわけもお話いただきます。後半に朱さんも参加。
 
 

発達障害の子にアロマという安心を

3回


マッサージで深まる親子の絆。

 
 
<今回のお話のポイント>

●睡眠の質が上がることで体がラクになる。

●香りとマッサージで副交感神経にスイッチするようになるため、神経が休まる。

●マッサージすることで、子どもの緊張がやわらぎ、子どもの方から、「また、やって」と言うようになる。

●子どもにいい反応が見えてくると親もリラックスして呼吸が深くなる。
 
 

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睡眠の質が上がると昼間のぼんやりが減ります。

 

江頭

多動タイプの反対に、ぼんやりしている不注意な子にも使えますか?

久保

動物もそうですが、人は、日中は交感神経と副交感神経のスイッチをON、OFFと切り替えをしながら活動し、夜は副交感神経優位な状態で良質な睡眠をとって日中の疲れをリセットします。その作業がうまく行えるように、それぞれの特性・効果をもった精油を使い分けるアロマで日常生活を円滑にするわけです。
 
香りは意識的にとり入れなくてもふっと意識下に入ってくるので、「あ、いい香り!」とまずは反応があります。精油を使い分けることで、いい香りとともにスイッチのONとOFFがスムーズに行えるようになることでしょう。

 

 

江頭

家に帰ってきて台所からいい匂いがすると、空腹感を感じ、「今日のご飯なに? いい匂いがする!」とやってきたりしますものね。

久保

不注意型の子に限りませんが、睡眠の質が上がることも大切です。寝ている間には脳も休めるし、腸も動いてくれます。すると、体がラクになり、昼間にぼんやりしてウトウトするようなことが減ります。
 
感覚過敏がある子たちは、ひとたび外へ出かけると、苦手な音や、まぶしい光などを過剰に受けて、脳が疲れを感じ、その蓄積によりぼんやり・不注意現象が生じます。だからこそ、穏やかな香りでリラックスしてよく眠れるようにしてあげるといいですね。

 

 

「こんなに気持ちよさそうに寝ているのをはじめて見た」
 

江頭

発達障害の子たちの睡眠の質が悪いのはなぜなのでしょう? 

久保

自律神経の調節がうまくいかないのでしょうね。緊張感が強くて、交感神経優位になっていると、なかなか眠れません。現在の生活はただでさえ、蛍光灯の明るい光や、スマホやパソコンのブルーライトなどで刺激を受け、神経が休まらない環境が多いですね。
 
アロマセラピーは香りとマッサージで、副交感神経の方にスイッチさせる力があるので、疲れやすい子たちにおすすめなのです。

江頭

マッサージは母親との絆(きずな)が深まり、母親の育児ストレスの軽減につながるという研究結果もあるようですね。

 

 

久保

はい。それは確かにあるでしょう。触覚過敏があって、手をつなぐことも嫌がっていた子が、マッサージは受け入れてくれる。触ること嫌がられることは、お母さんにとって寂しいことだしショックなことですね。だから、マッサージさせてもらえるのは、「うれしい」と思います。
 
ほかにも、「この子がこんなにじっとしているのは初めてです」とか、「こんなに気持ちよさそうに寝ているのは見たことがない」と、驚かれる方も多くて、お母さんとしても、「ほっと」するんじゃないでしょうか。アロマ自体がストレスの軽減にとても有効なのですが、この「うれしい」「ほっと」がお母さん方のストレス症状を改善してくれるのです。

 

江頭

ふれあうことで親子の絆が深まり、子どもも安心する。これは子どもの成長過程においてとても大切ですよね。そうして、他の人との関係性も深められるようになるといいですね。

 

 

うれしいことをしてもらうと会話が生まれる。

ここで、朱さんにも再びご参加いただき、マッサージの良さをお聞きしました。

江頭

肌に触れることでわかる。そこにマッサージのよさがあるようですね。

マッサージは親子の接点になると思っています。
障害をもつと、つい親が固定概念を持ってしまいがちです。この子は自閉症だからこうなんだとか、ADHDだからこうだとか。それって怖いことですよね。
 
人はひとりひとり個性があります。子どものこともひとりの人間として見たら、こんな感じの子なんだ、こういう風にするんだ、これが苦手なんだなどとわかるはずです。ただ、それを知るには、何かしらの接点がないと難しい。
 
「はい、ここに座って話してごらん」と言っても、子どもは何も話してくれないでしょう。親子で一緒にいて、楽しいことやうれしいことをやってもらうと、自然に子どもも話しやすくなります。

 

江頭

そのきっかけがマッサージなんですね。

関係を作るのに、マッサージでふれあうことが大事なのです。緊張して硬くなっている子どもたちを、緩めてあげられる。すると「気持ちいいから、またやって」となる。それが持続性につながり、親も疲れや緊張がとれて、互いがいい関係になったときに、会話も理解も深まるわけです。

 

 
診断名だけで判断すると、子どもがみえなくなる。
 

江頭

言葉かけだけでは引き出せないことが、触れてみるとわかることがあるというわけですね。

この子はどうなのか? なぜできないのか? これが苦手だけど、どうすればできるようになるのか? を考えるためには、診断名ではなく、その子を見ることが大事です。
 
これは、障害があるなしに関わらず、どんな親子にも、どんな人間関係においてもそうだと思います。肩書きや診断名だけで、相手のことがわかるわけがないし、逆に診断名がつくことで見えなくなることもあるのかもしれない。だけど、まずはその子自身を見ることが大事だと思います。

江頭

本当にそうですね。特性にある程度の共通性はあるかもしれないけれど、好きなことや苦手なこと、その程度も、ひとりひとりの子どもによって違うわけですものね。それを深く知るためにも、マッサージは有効ということですね。ところで、マッサージをしているお母さんもリラックスきるのですか?

まずいい香りがしますからね。香りで癒されます。また精油の持つ効果で自律神経が安定し、お母さんも優しい気持ちで子どもに接することができ、良い関係性が生まれるのです。
 
さらに、子どもがほぐれていい顔をしたり、落ち着きのない子がじっとしていたり、いい反応が見えてくるとうれしいですね。すると、いつも忙しいお母さんの気持ちもゆったりとしてきて、呼吸も深くなり、リラックスできます。

 

 
続く。

1回目 緊張した脳と体をほぐす。それだけで変化があらわれます。

2回目 マッサージで落ち着く。

4回目 「西洋医療」と「補完代替医療」のコラボレーション。

5回目 自立のためのアロマオイル。

薬剤師/IFA認定アロマセラピスト/IFA認定講師/日本アロマセラピー学会理事/医学博士
久保浩子

くぼ・ひろこ 共立薬科大学卒業後、㈱ツムラにて医療用漢方製剤の品質評価に携わる。渡英しアロマセラピーを学び、英国IFA認定資格を取得。リフレクソロジーやリンパトレナージュなどの補完代替療法も学ぶ。2005年より「オリエンタル・アロマセラピィ・カレッジ」副校長を務め、メディカル・アロマセラピストの育成に努める。2015年昭和大学大学院医学研究科修了、ラベンダー精油の研究で博士号を取得。

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統合医療「朱クリニック」院長/日本アロマセラピー学会認定医/日本外科学会認定医/日本消化器外科学会認定医/日本救急医学会認定医
朱永真

しゅ・えいしん

1982年 日本大学医学部卒業後、同大学医学部第一外科入局。1992年から5年間、日本大学板橋病院救命救急センター勤務。1999年西洋医学と補完代替医療を統合した医療をめざす朱クリニックを開院。2005年 「オリエンタル・アロマセラピィ・カレッジ」開校、講師、理事長兼任。統合医療の観点から発達障害の子どもたちに精油を使った「メディカル・アロマセラピィ」実践し成果を上げている。

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編集者/ライター
取材/構成/文 江頭恵子

えがしら・けいこ

フリー編集者、ライター。発達障害をテーマにした書籍が多い。
「発達障害の僕が輝ける場所をみつけられた理由」(栗原類著 KADOKAWA)「15歳のコーヒー屋さん 発達障害のぼくができることから ぼくにしかできないことへ」(岩野響著 KADOKAWA)「育てにくい子にはわけがある」(木村順著 大月書店)「これでわかる 自閉症とアスペルガー症候群」(田中康雄・木村順監修 成美堂出版)「これでわかる 「気になる子」の育てかた」(木村順監修 成美堂出版)「発達障害の子を理解して上手に育てる本 幼児期編」(木村順監修 小学館)「「小学校で困ることを」を減らす親子遊び10」(木村順監修 小学館)「発達が気になる子の「できる」を増やすからだ遊び」(笹田哲監修 小学館)「発達支援実践講座 支援ハウツーの編み出し方」(木村順著 学苑社)「なんだかうまくいかないのは女性の発達障害かもしれません」(星野仁彦 PHP研究所)「発達障害に気づかない母親たち」(星野仁彦 PHP研究所)「4歳までの「ことば」を育てる語りかけ育児」(中川信子著 PHP研究所)「子どもの発達に合わせたお母さんの語りかけ」(中川信子著 PHP研究所)「子育てのモヤモヤ・ウツウツが晴れる本~こころがラクになる考え方」(中川信子 伊藤郁子 花山美奈子 共著 PHP研究所)

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