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発達障害と感覚統合の関係が
わかりやすいたとえ話で頭入る名著

育てにくい子にはわけがある 感覚統合が教えてくれたもの』(木村順著 大月書店 2006年 1650円)は、2006年発行ですが、今読んでも全く古くなくおすすめです。

著者で作業療法士の木村順先生のわかりやすは、たとえ話のうまさにあります。
実際に講座を聞きにいったことがあるのですが、たとえばこんな風です。

「歩き方や手の動かし方を習ったり訓練したりしたことある人いますか? 習わなくても自然にできますよね。自然にできないのが発達障害の子なんです」というように。
もちろん、たとえ話ですから、発達障害の子が習わないと歩けないということではないんですよ。一般的に教えられなくても、訓練しなくてもできることが、できないというたとえです。

感覚もまた、そのひとつ。私たちは脳がキャッチする感覚をごく自然に取捨選択しています。これを「感覚統合」として、木村先生は著書で感覚統合とは「脳に入り込んでくる情報を『交通整理する』働き」ととてもわかりやすく一言でまとめています。

たとえば、買い物に出かけて道を歩いているときにすれ違った車の数は覚えていません。数える能力がないわけではなく、不必要な情報だからそれ以上、脳に入ってこないように赤信号でストップしているわけです。

本を読んでいるときに、目に飛び込んでくる外の風景や、座っている椅子の感覚、外の音や話し声も不必要な情報なので、そこに注意が向かないように赤信号でストップしているわけです。青信号で通ることができるのは本の文字と自分を呼ぶ声くらいです。

このように外からの刺激が脳の中できちんと「交通整理」されている状態が「感覚統合」によるものというわけです。

交通整理ができない=感覚統合がうまくいかないと集中できなかったり、ちょっとした刺激をとても敏感に感じ取ってしまったりします。

事例も大変に参考なるものがいくつも掲載されています。
たとえば、ケンカの絶えない男の子がいました。普段はおとなしいのに行事などみんなで何かをするときにトラブルを起こします。いろいろ調べていくうちに、トラブルの原因が触覚の「交通整理」がうまくいかず、過剰防衛に走ってしまうことがわかりました。このため相手にちょっとでも触れらたり触れられそうになると叩いて拒絶してしまう。

この触覚の課題を改善するために、手探りでモノを当てるゲームやマッサージで徐々に触覚の交通整理ができるようになり、行動も改善しました。暴力の原因が意外なところにあったわけです。「感覚統合」という知識がないと、単なる乱暴な子、キレやすい子、しつけができていない子でかたづけられていたかもしれません。

発達障害関連の本は次から次へと発行されますが、木村順先生のように早くから発達障害の子への感覚統合に着目して、療育をしてきた方のお話はやはり説得力があります。
新着の情報もいいのですが、根本となる知識や情報を土台にすることも必要ですよね。情報が錯綜しているときは、なおさらそう感じます。

まさに情報の交通整理。必要な情報だけをキャッチできるようにしておきたい。そのためには、何度もここでお伝えしていますが、信頼のおける専門家の話を軸に据えるといいと思います。信頼できる先生というのは、ご自分が発信している情報の更新も怠りません。常に現場から学んでいるからです。