興味のあること、熱中できることが見つかると学ぶ意欲が出てきます。安部先生は、これを「意欲の皿」と呼んでいます。皿を大きくするにはどうしたらいいのでしょうか? ポイントはふたつ。学習方法は必ずしもひとつではない、ということ。もうひとつは、失敗させない目配りをすること、です。

支援学校の先生に聞く子育てのヒント 第1回

子どもの意欲の皿を広げる

 
 
家庭での学習は
興味があるものを中心に

 
 ドリルを使った読み書きの訓練を嫌がる子が、自分の好きな分野なら文字を読みたがり、数も数えるようになるのはよくあることです。電車が好きな子なら電車の絵本や図鑑を通して文字や数を意欲的に覚えていきます。難しい漢字も自分の好きな分野なら難なく覚えてしまうものです。
 
 発達支援が必要な子には、まさにこうした学習が向いています。苦手なことを無理やり克服させるのではなく、興味のあることや得意なことを中心に据えましょう。学びたいという「意欲の皿」が広がります。小さいうちにこの皿を広げておくことはとても大切です。皿が大きければ大きいほど、そこにのっかる知識やスキルの量も多くなります。皿が小さいと、そこにのっかるものも小さくなってしまいます。
 
 意欲の皿さえ広げておけば、多少の問題行動はOKです。そんなものは年齢があがるにつれていくらでも調整できます。ところがトラウマになるような失敗をさせてしまうと、自信をなくし意欲の皿が小さくなります。
 
 学校では、みんなの前で大きな失敗をさせないことです。日直当番で司会をさせられてどうしたらいいのかわからず戸惑っている子が「何をやっているんだよ」と言われて学校に行けなくなりました。先生に不意打ちであてられて、真っ赤になりながら教科書をつっかえつっかえ読み、学校に行けなくなった子もいます。
 
 この子たちに人前で恥をかかせないよう先生にお願いしておきましょう。みんなの前で発表させるのは、その子が自信をもってできるようになってから。教科書を読ませるなら、あらかじめ先生が教科書のあてる箇所を教え、家で予習できるようにしておく必要があります。さらに放課後、先生とふたりのときにリハーサルをしてもらい自信がついたところで初めてみんなの前で読むようにします。
 
 発達支援が必要な子は、失敗に弱い子が多いのです。大きな失敗をさせない工夫を。

 

 

行動の見通しを書いて示すと
スムーズに動ける

 

 家庭ではきょうだいと比較しないことです。たとえばお風呂に入るのに、ほかのきょうだいは着替えの下着を引き出しから出して、脱いだ下着は洗濯かごに入れるということをしているかもしれません。でもそれができない子もいます。
 
 そんなときには「妹はできるのに」などと言わずに、その子ができるような工夫をしてみてください。できないのは、お風呂に入ることしか頭にないため、それまでの行動の見通しが立てられないからです。
 
 お風呂に入るまでを紙に書き出してみると、行動がつながります。「下着を引き出しから出す→着ている下着を脱ぐ→脱いだ下着を洗濯かごに入れる→お風呂に入る」と。今これだよねと示し、一つひとつの行動をつなげて考えられるようにしてあげてください。

 
 

用意しやすい工夫で忘れ物を防止
 

 学校に行くようになると持ち物が増え、それらを自分で用意しなければならなくなります。ここでも失敗しない工夫をいくつかあげてみます。

●見やすく用意しやすい時間割
 時間割どおりにそろえられない子は少なくありません。時間割のつくりそのものが混乱の原因になっていることがあります。月曜から金曜まで一覧になっているために、目がちらちらしてどこを見ていいのかわからなくなってしまうのです。
 必要な曜日だけ見えるようにするなど時間割に工夫をするといいでしょう。時間割に用意するものを具体的に書いておくと何を用意したらいいのかが、わかりやすくなります。「音楽」と書かれた横に「笛」、「習字」なら習字道具、「体育」なら体操着というように。

●教科別ホルダーで整理
 教科によって用意するものは違います。教科別のホルダーを作ると整理しやすくなります。たとえば「図工」などは、クレヨン、のり、はさみなど何種類もの道具が必要です。それらの道具を別々にしまうのではなく、「図工箱」としてひとつにまとめておくと用意しやすくなります。何をどこにしまったらいいのかをわかりやすく示すことが大事。

●プリント専用の袋を
 学校のプリントも専用の袋に。100円ショップで売っているようなジッパーつきの袋で十分です。袋にラベルで赤く目立つように「おたより入れ」と記しておきましょう。学校からのおたよりを入れて家で出す。家からの提出物を出して先生に渡す。いつも同じものを同じところに入れておくと習慣化されます。
 この習慣を小さいときからつけておくと、高学年になってプリントがランドセルの底でぐちゃぐちゃということがなくなります。

 

 

叱られる要素を減らし
不安材料を取り除く

 
 用意しやすく、しまいやすい環境をつくることで忘れ物や紛失を防ぐことができます。忘れたりなくしたりすると、子どもは不安に陥ります。「また忘れたのか」と叱られたりもするでしょう。するとますます不安になります。
 叱られる要素はできるだけ少なくなるようにしてあげて下さい。叱られ続けていると、「自分はダメな人間なんだ」と思い込んでしまいます。意欲の皿を広げるのも自己肯定感があればこそです。
 毎日の生活の中で、子どもが挫折感をもたずにすむ工夫をぜひしていただきたいと思います。

 
 
安部博志先生からお母さんへのメッセージ2「子どもに幸福力をつける」はこちら。

取材・構成・文・写真/濱津和貴(安部先生)、tobiraco編集室

 
 
 

この記事は、子育て雑誌『edu』(小学館、2016.3月号で休刊)の別冊『発達障害の子の子育て応援BOOK』(2015年発売)に掲載されたものを版元の許可を得て転載しています。
 
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元筑波大学附属大塚特別学校地域支援部長。現創価大学教育学部准教授。
安部博志先生

あんべ・ひろし  筑波大学附属大塚特別支援学校勤務時代、特別支援教育コーディネーターとして地域の子ども、保護者、教師の相談・支援にあたる。園から小・中学校まで巡回したクラスは通算10,000学級を超える。教員時代から子どもの特性に合わせたオーダーメードの教材や教具を開発。「トーキングゲーム」「かえるカード」は教員時代に手作りしていた教材。著書に『特別支援教育 発達に遅れや偏りのある子どもの本当の気持ち』(学事出版)、『発達障害の子どもの指導で悩む先生へのメッセージ』(明治図書出版)、『使ってみたら「できる」が増えた発達障害の子のための「すごい道具」』『ひっくりカエル!』(小学館)『子どもの発達を支える アセスメントツール』(合同出版)がある。

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