筑波大学附属大塚特別支援学校は幼稚園から高等部までの一貫教育だからこそ見えてくるものがあります。幼稚部から就労の支援までかかわっている安部博志先生が、いまママたちに最も伝えたいこと。それは子どもが幸福になるために必要なことです。幸福力の高い子に育てるために家庭でできることをお聞きしました。
 

支援学校の先生に聞く子育てのヒント 第2回

子どもに幸福力をつける

ひとりで育てようと思わないで、いい支援者と二人三脚で

先日、あるお母さんに「発達障害」の「障害」という言葉に抵抗があると言われました。まったくそのとおりです。何らかの課題を抱えた子の課題は「障害」ではないはずです。発達に凸凹があるととらえてほしいですね。適切なサポートがあれば、その子のいいところを伸ばすことができます。
 
サポートは早ければ早いほどいいところが伸びます。できれば3歳ぐらいまでに、その子が抱えている課題に気づき、いい支援者に出会えるのが理想です。小学校の高学年、思春期あたりに気づいて、そこからのサポートとなると難しくなります。もちろんできないわけではありませんが。
 
では、いい支援者に出会うにはどうしたらいいのでしょうか?
 
まずはお母さん自身が、子どもの課題を受け入れることから始めましょう。園の先生や小学校の担任に指摘されて納得できなかったり、自分の子に偏見をもっていると感じたりするかもしれません。しかし先生方は、少なくともお母さんよりはるかに多くの子どもたちを見ています。「何か課題を抱えている。サポートが必要」ということはわかるものなのです。先生の「発達障害」(ここでは、一般的に流通しているこの言葉を使います)への理解や知識が十分ではない場合は、お母さんのほうからお子さんについて知ってもらえるようにしましょう。「ウチの子が困っていること」「困った場面で先生にしてほしいこと」などを具体的に伝えるようにします。先生にいい支援者になってもらうのです。
 
もしそれがうまくいかないときは園や学校の特別支援教育コーディネーターに相談するといいでしょう。特別支援教育コーディネーターは専門的な知識をもち研修を積んでいます。教師間の連携を紡ぐことのできるバランス感覚のある人が任命されています。
 
子どもをサポートするうえで何より重要なのは先生との連携です。その子にもっともフィットしたサポートのアイデアが生まれるのも、親と先生がうまく連携しているときです。それは必ずしもマニュアルには出ていないかもしれません。でもその子をいちばん知っているからこそ生まれたのです。

困ったときに、「助けて」と言える能力を身につける

発達支援が必要な子にもっとも身につけてほしいのは、人とコミュニケートできる能力です。何に困っているのか、どうしてほしいのかを具体的に言えるかどうかで、その子のその後の人生が決まります。おなかが痛いのか、熱があるのか、だるいのか、つらさを訴えられないと体を壊してしまいます。就労もここにかかっています。コミュニケートできないために、思春期に入ってうつ病や引きこもりなど二次障害に陥る子は少なくありません。
 
コミュニケーション能力をつけるためには、親が先回りしないことです。子どもの要求を先取りせずに、子どもが自分で言えるようにしましょう。
考えてみればこれは、発達支援が必要な子に限りません。困ったときに、「助けて」と言える力はあらゆる人に必要です。困っている人に手を差し伸べる人たちがいるのが豊かな社会であり、私たちが安心して暮らせる社会なのです。

自尊感情の高さで決まる幸福になれる力

小さいうちに身につけてほしいことがもうひとつあります。それは、高い自尊感情です。人と違っていてもOKと思えれば、人は幸福に生きることができます。「自分はダメな人間だ」と感じて生きるほど悲しいことはありません。
 
自尊感情を育てるのは小さいときからの成功体験であり、自分が誰かの役に立ったというという体験です。ハードルは低く、工夫も必要。コンプレックスを抱かせるような致命的な失敗をさせないことは特に重要。手伝ってもらったら「助かったわ」のひと言を。特にカギになるのは言葉です。言葉はその子を育てる環境です。
 
ぜひ子どもにはポジティブな言葉をかけてください。「あと5分しかない」と焦らせるのではなく、「まだ5分もあるよ」とポジティブな言葉を使っているうちにお母さん自身がポジティブになります。親子ともに自分をOKと思えるようになるのです。自分をOKと思える人は他人もOKと思える人。これが幸福に生きる力の源です。

 
マイナスな言葉をポジティブな言葉に置き換える

・あと5分しかない  →まだ5分もあるよ。あせらずにやってごらん!
・いつもひとりぼっち →自分の世界を大事にしているんだね!
・変わっている    →ほかの人にはない素晴らしい個性の持ち主ね。
・落ち着きがない   →いつも元気で生き生きとしているね!
・怒りっぽい     →自分の気持ちを素直に出せる人なんだね!
・心配性       →明日の準備を前もってきちんとできる子なんだね!

取材・構成・文・写真/濱津和貴(安部先生)、tobiraco

 
 
安部博志先生からお母さんへのメッセージ1「子どもの意欲の皿を広げる」はこちら
 

この記事は、子育て雑誌『edu』(小学館、2016.3月号で休刊)の別冊『発達障害の子の子育て応援BOOK』(2015年発売)に掲載されたものを版元の許可を得て転載しています。

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元筑波大学附属大塚特別学校地域支援部長。現創価大学教育学部准教授。
安部博志先生

あんべ・ひろし  筑波大学附属大塚特別支援学校勤務時代、特別支援教育コーディネーターとして地域の子ども、保護者、教師の相談・支援にあたる。園から小・中学校まで巡回したクラスは通算10,000学級を超える。教員時代から子どもの特性に合わせたオーダーメードの教材や教具を開発。「トーキングゲーム」「かえるカード」は教員時代に手作りしていた教材。著書に『特別支援教育 発達に遅れや偏りのある子どもの本当の気持ち』(学事出版)、『発達障害の子どもの指導で悩む先生へのメッセージ』(明治図書出版)、『使ってみたら「できる」が増えた発達障害の子のための「すごい道具」』『ひっくりカエル!』(小学館)『子どもの発達を支える アセスメントツール』(合同出版)がある。

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