わが子の学び方を変える合理的配慮 

申し出の前に知っておくべき
5つのポイント 6つのプロセス

 

「配慮してもらう」のではなく、「配慮を要求する」
 

合理的配慮とは、障害による負担を軽減するための配慮を要求することです。要求された側は過度でない限り配慮を提供します。
 
ここで大事なのは、障害者が配慮を申し出る点です。
 
学校であれば、合理的配慮によって障害による負担を軽減し、学習の機会の保障を要求するわけです。
 
合理的配慮というと、学校が何かをしてくれる制度と考える人がいるかもしれませんが、この逆です。「何かしてもらう」という受け身ではなく、こちらが「〇〇してほしい」と発信するところから始まるのが合理的配慮です。
 

合理的配慮は、障害者差別解消法に基づいた法律です。法律専門の出版社が「合理的配慮」の本を出しているのをみても、合理的配慮が法律だということがおわかりいただけると思います。
 

 
左は中央法規、右は有斐閣。どちらも法律の専門書の出版社です。
 

法律なので、一旦、決定したら誰であろうと従わなくてはなりません。ただし、一度決めたからといって、それが絶対ではなく、状況にあわせて変えることができます。このあたりは後述します。

 
「私たち(当事者)抜きに決めないで」が原点
 
合理的配慮が生まれた背景を知ると、なぜ「してもらう」という受け身ではなく、能動的な「要求」「発信」なのかをおわかりいただけると思います。

合理的配慮は、障害者差別解消法に基づいています。障害者差別解消法は、障害者権利条約から生まれました。日本も障害者権利条約に批准しています。

障害者権利条約は、世界中の障害当事者が参加して作られた条約です。合言葉は「私たちのことは、私たち抜きで決めないで(Nothing About Us Without Us)です。つまり、障害当事者の意思を尊重してほしい、尊重すべきということです。

合理的配慮も、障害当事者の要求(意思表明)からスタートさせます。
 
学校の合理的配慮も、必ず本人、保護者、学校の3者で決めるようにします。

 
合理的配慮の申し出の前に知っておくべき5つのポイント
 
1)目的をはっきりさせる

その配慮はなんのためなのかを、申し出る時に伝えます。たとえば、聴覚過敏という障害特性があって授業に集中できないから、イヤーマフやノイズキャンセラーの使用を認めてほしい、など。
障害のどのような特性(聴覚過敏)で、目的(授業に集中して学ぶ)を達成できないかをはっきりさせます。
 

 
2)申請相手は学校か学校設置者

実施するのは担任の先生かもしれませんが、申請する相手が人だと、担任が変わると約束し直さなくてはならなくなります。申請する相手は学校、もしくは学校設置者です。学校設置者とは、国立なら国、県立なら県、市立なら市、区立なら区、町立なら町、ということになります。

3)適当かつ必要な変更調整
障害の種類によって配慮を固定するのではなく、その子にとって適当(ふわさしい)ものであり、状況の変化や子どもの成長よって変更調整していきます。

4)個別具体的に考える
一律に考えずに、場面や教科によって具体的に考えていきます。たとえば、学習障害とひとくちにいっても、算数と国語では必要な配慮は違ってくるかもしれません。

5)過度な負担を避ける
学校や学校設置者にとって負担が大きい場合は、実施しないという選択肢もあります。実施しない代わりに、別の方法を提案し、話し合いで決めていきます。

合理的配慮提供までの6つのプロセス

1)意思の表明

本人の意思表明なくして合理的配慮はスタートしません。学校と保護者がいくら話し合って決めたことでも、本人が嫌といえば実施できません。ですから、ここも話し合いです。
たとえば、教室でパソコンを使うのは目立つから嫌だけど、家での宿題なら使いたいと言うかもしれません。この場合、教室では、その子の書く量を減らすなどの配慮で合意できるかもしれません。

本人が困っていると言わない場合もあります。そのときには、学校や保護者が「こういうことで困っているよね」と聞き、本人が「困っている」という意思表明もありです。

2)話し合い(建設的対話)

当事者と保護者の要求が100%通るとは限りません。学校の側にも事情があります。予算的な問題、担任の負担が大きいなど理由はいろいろでしょう。

こちらの要求が通らない場合は、理由を必ず聞くようにします。理由を聞いて、お互いに歩み寄っていくようにします。これが文部科学省のいう「建設的対話」です。おそらく、合理的配慮のキモになるのではないでしょうか。
もし、学校が話し合いにも応じないとしたら、応じない理由を聞きます。「応じていただけない理由を教えてください。理由をメモして別の相談窓口にいきます」と淡々と伝えればいいと思います。別の相談窓口とは教育委員会であったり、場合によっては文部科学省の管轄相談窓口であったりです。

3)決定したら書いて残す

学校が快く応じてくれたとしても、決定事項は必ず書面に残します。個別支援計画書に書かれた場合は、見せてもらいます。写真にとっておいても良いかもしれません。個別支援計画書がなければ、「合理的配慮の事項」として書面に残します。道具が必要なら、写真や動画として残しておいてもいいでしょう。
書き残すことで、引き継ぎも見直しもできます。
繰り返しになりますが、合理的配慮は法律なので、相手が変わったら法律も変えるというわけにはいきません。

4)一旦決めても、見直す
子どもは成長し、障害の状態も変わります。学級が変わると環境も変わります。定期的に見直すことが必要。だから、3)の書き残すことが大事になってくるのです。

5)引き継ぐ
担任や学校が変わったら、配慮の提供がなくなってしまうようでは、合理的配慮になりません。必ず引き継ぐようにします。このためにも、やはり3)の書き残すことが大事です。

6)外部の情報や専門家を活用して話し合う
学校との話し合いだけはうまくいかない場合、医師や心理士などの専門家に入ってもらうようにします。合理的配慮は学校と保護者だけで決めなければならないわけではありません。

以上が、合理的配慮の提供を申し出るにあたって押さえておきたいことです。

5つのポイントと6つのプロセスを踏まえていると、無用な「闘い」を防ぐことができます。

合理的配慮は法律です。ルールです。ルールを知らないと子どもの権利を守ることができません。運転する前に標識の意味を知っておくのと同じです。

この記事は、2024年5月1日、合理的配慮の推進に努めている前文部科学省特別支援教育調査官の話をまとめました。

●合理的配慮の参考になる本、こちらでご紹介しています。

合理的配慮が身近になる本