ちょっと先輩ママの話からは日常的に役立つ話が聞けます。お子さんが成人した大先輩クラスのママからは、その先の話を聞くことができます。先の道を明るく照らしてくれる先輩ママの話を聞きたい。4人全員発達障害のお子さんを育てあげた堀内祐子さんのお話です。
 
 

先を照らす人の話 第1回

呪いの言葉と可能性 〜堀内祐子

 

堀内祐子さんの4人のお子さんは全員発達障害。今はそれぞれの道を歩んでいますが、堀内さんが子育てをしていた時代、日本では「発達障害」という言葉すらほとんど知られていませんでした。

 
当時を振り返りながら今だから言えることを、後に続く後輩ママたちに講演や執筆活動を通じて伝えています。
講演会では成人したお子さんと一緒に話すこともあります。ぜひ一度は堀内さん親子のお話を聞いてみてください。元気になれます。著書もとても話が具体的でおもしろく、子育ての参考書にもなります。

 
堀内さんはご自身のHP「ぎふてっど.com」でコラムを綴っています。その中でもぜひご紹介したい回があります。
堀内さんの許可を得てここに紹介させていただきます。

 

可能性

呪いの言葉

なんか物騒な言葉だけど、最近ちょっと気づいたことがあった。

本(発達障害の子とハッピーに暮らすヒント)にも書いているが、ケントの診断のときにドクターから言われた言葉。

 
「このまま行けば、不登校、家庭内暴力、引きこもり、入院になる可能性が高いので、病院とつながっておきなさい」

 
セカンドオピニオンもとりたかったし、だいたいそのときの私は疲れ果てていて、ケントが入院してくれればいいと思っていたので、ドクターに勧められるまま病院に行った。

その言葉のことは、ひどいなぁと思いながらも、ちょっと忘れていた。それが、今頃になって突然、私の頭の中に

 
「それって呪いの言葉じゃん」

 
って思いが降ってきた。診断されたばかりで、アスペルガーが何なのかもわからなかった。

15年も前のことだから……

「知的な遅れのない自閉症です」

自閉症!

「ケントが自閉症なのか」って混乱している中、追い打ちをかけるように言われた言葉。

不登校

家庭内暴力

引きこもり

入院

その時の私にとっては「入院」というあまりにも魅力的な言葉が含まれていた。だから、私はそこにフォーカスしたのだろう。

そんなにショックではなかったような気がする。

だけど、不登校も家庭内暴力も引きこもりもけっこうしんどい言葉だ。

一つだけだってインパクトがあるのに3つ並んだ。

私にとっては魅力的だった「入院」という言葉も普通はマイナスに捉える。

後で考えたら「随分ひどいことを言われているいるなぁ」って思ったけど、ケントがそこまで壊滅的な状態だったんだろうと捉えていた。

なんたってドクターは「可能性が高い」と言っているのであって「なる」と言っているのではない。

そして、多分親切で「このままでいたらそうなっちゃいますよ」って警告して下さったのだろう。

マイナスなイメージ

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ところが、気付いてしまったのだ。

ドクターの思いとは別に、これは「呪いの言葉だよな」

思考って大切で、思考でいろいろ変わっていく。

だから、マイナスなイメージを植え付けられると、その影響を受ける。

もちろん、自分の意思が強く、軸がしっかりしていれば、はねのけることはできる。

でも、さっき書いたように、診断を聞いただけでもショックを受けている。

そしてなんたってドクターに言われている。

普通は真に受ける。

「うちの子は不登校になって、家庭内暴力が始まって、引きこもっちゃうんだわ……」(-_-;)

なんて酷なことを言うんだろう。

親をどこまで追い詰めるんだろう。

私は講演でいつも意識は伝わるって言い続けている。

親の思い、意識は伝わっちゃうんだよ。

子どもに!

ドクターの言葉が親、そして子どもにしっかり伝わってしまう。

お願いだから、呪いの言葉を使わないで!

私はその逆の経験もある。

ドクターにかけられたポジティブな言葉に希望や元気をもらった。

ケントは同じ子だよ。

同じ子に対する言葉がひどくマイナスだったり、ポジティブだったりする。

そしてケントは、どうなった?

高校を卒業して、会社作って、結婚するよ。

めっちゃ幸せだよ!

ドクターが言った「可能性」はただの可能性。

だけど、ケントが学校を卒業して、仕事して結婚する可能性だって同時にあった。

なのにさ、さもそうなるって感じで、呪いの言葉を投げかけた。

ちなみに私はそのドクターになんの恨みもない。

でもこのことはすごく伝えたかった。

もし、もしこのコラムを読んで下さっている方の中に発達障害の診断をするドクターが一人でもいたら、分かってほしい。

親は育てにくい子どもと日々格闘して、自信なんかとうになくなっている。

疲れ果てている。

でもクリニックや病院に行ったら、なんか、助けてもらえるんじゃないか?

良いアドバイスや情報をもらえるんじゃないか?

淡い期待をもっていることもある。

何を隠そう、私がそうだった。

そして、呪いの言葉を言われて帰ってきた。

私は気が強い。

比較的楽天的。

夫が助けてくれた。

だから、うつにもならず、なんとかやってきた。

でもね、心優しいナイーブなお母さんだっている。

夫が協力どころか、奥さんを責めたりすることもある。

辛いよ。

代わりに言ってあげて「お母さん、よく頑張ってきたね」って!

私は「よくここまでひどくしましたね」って言われたの。

悔しくて、悲しくて泣きたかった。

ケントのこの笑顔を見て!

 

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あきらめないで、投げ出さないでやってきたら、こういう日が来るんだよ(¯―¯٥)

彼らは幸せになる可能性がある\(^o^)/

 

撮影(チョコレート、空)/tobiraco
 
 
先を照らしてくれる人の話 第2回 発達障害の家族と上手につきあう 〜平岡貞之
 

特別支援士、傾聴心理士、自閉症スペクトラム支援士任意団体、「発達障害 親支援ハッピーサポート」代表
堀内祐子さん

ほりうち・ゆうこ
発達障害のある4人の子を育てた経験をもとに講演・執筆活動などを行う。共著に『発達障害の子とハッピーに暮らすヒント』『発達障害の子が働くおとなになるヒント』(ぶどう社)がある。HP「ぎふてっど.com」にコラムを掲載中。

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