眼鏡で子どもが変わる
正しく見えたら、「できる」「わかる」が増えた(後編)
矯正しないままでは、裸足で砂利道を走るのと同じ
藤城 日本では、視機能が原因の読み書き困難な子も、ディスレクシアと分類されていますよね。
中西 おかしな話です。視機能に問題がある状態で発達検査をしても、よい結果が出るわけがない。発達障害と診断されている子どもたちの中に、単によく見えていないだけの子もいる気がしますよね。
発達検査の項目には、目で見た情報を決められた形式で処理する作業があります。見え方に問題があるせいで作業がうまくいかず、発達障害にされているケースもあるかもしれません。
藤城 そうかもしれませんね。
中西 目を使った作業がうまくいかない子どもたちの場合、ビジョントレーニングで眼球運動をすれば読み書きできるようになるといわれることがあります。しかし、正確に見えていないのだから、つらいだけで効果が上がりません。
藤城 おっしゃる通りです。ビジョントレーニングをしても効果がある子と、ない子がいます。なぜなのか、ずっと気になっていました。
中西 けっして、ビジョントレーニングに効果がないといっているのではありません。トレーニングが誰にでも有効というわけではないのです。子どもは効果が上がることを理解すれば、率先して取り組みます。自分に効果がないのがわかるから、トレーニングが続かないんです。
そもそも、正しく見えていない子にトレーニングをさせるのは、砂利道を裸足で走らせているようなものなのです。
藤城 ああ、なるほど!
中西 裸足で砂利道を走れといわれても、痛くて走れません。それを「根性入れて続けていれば、速く走れるようになる」なんて、そんなわけないですよね。
砂利道を整備して走りやすくしてあげるのは、学校や家庭の役目です。視機能を正す眼鏡がスパイクシューズです。その子に合わせたシューズがあれば、速く走れるようになる。眼鏡はそのシューズの役割と同じです。視機能を矯正する眼鏡をかけた上でトレーニングをすれば、効果も上がるのではないではないでしょうか。
見えることで自信がつき、積極的に
―――つまり、視機能を矯正する眼鏡を作れば、読み書き困難も改善される可能性があるということでしょうか?
藤城 眼鏡を作ることで読み書き困難が改善されるのは、あくまでも結果のひとつにすぎません。もっと大きな変化がもたらされていますね。
たとえば、家庭科の課題のクロスステッチで、思う場所に針をうまく刺せずに泣いていた子が、眼鏡をかけたら、ラクにできるようになりました。うれしいですよね。自信がつきます。そのせいか、子どもによってはよく話すようになったり、運動をするようになったりと、精神面や生活面で大きな変化が生まれます。階段を踏み外して転げ落ちたりすることもなくなるわけです。
藤城 点字ブロックのデコボコに驚いた子も、できることが増えて、同年齢の子たちと遊べるようになりました。キックボードに乗れるようになり、みんなと一緒に遠出できるようになりました。自転車にも挑戦しています。結果、塾はさぼりがちになるんですけどね(笑)。
眼鏡のおかげで読み書き困難も改善されますが、それ以上に生活の質の向上が子どもたちにとっては大きな変化ではないでしょうか?
中西 読み書きももちろん大切ですけど、子どものうちは、外遊びだったり、友だちとの関係だったり、いろんな経験をすることが重要ですよね。ボールがよく見えないから、友だちとボールで遊べないとか、バランスをとるような遊びができないとか、正しく見えていない視機能のせいで経験が狭められてしまうのは、とても残念なことです。
藤城 読み書きの困難の改善が、すぐに成績に結びつくわけではありません。でも、生活の質がかなり向上します。よく見えるようになったら、できることが増えたためか、今までやらなかったことにチャレンジするようになる子も少なくありません。
本を読み始めた子もいます。今までは、文字を追うことがつらくて仕方なかったのに、よく見えるようになったら、大好きなゲームの攻略本を読んでみようという気になったようです。「先生、ほら、こうするといいんだって」と、うれしそうに本の一節を読んで聞かせてくれました。読み書きは、興味の幅を広げる入り口になりますね
歩き方が変わる、仕事の効率が上がる
中西 視機能には、深視力と呼ばれる機能があります。遠近感、立体感、奥行き、動的な遠近感を捉える視機能です。自動車の大型免許や二種免許を取る際には、深視力の検査があり、数値が低いと合格できません。実は、この深視力に問題があるために、生活に支障を来たしている人は少なくありません。
見えないことによる生活面での困難は、見える人にはわからない苦労がいっぱいあるんです。たとえば、酪農家の方のお話ですが、乳搾りする際に、牛の乳に機械を取り付けるのにいつも苦労していたそうです。眼鏡を作って、正しく見えるようになったら、ラクに手際よく取り付けられるようになりました。仕事の効率も上がりますね。
藤城 よく見えないと、確かに仕事にも影響しますね。
中西 大人のお客さんで、スニーカーの靴底の片側が極端にすり減っている人がいらっしゃいました。見え方を修正しようと、体の一方に重心がかかっていたのでしょう。歩き方が偏ってしまい、靴底の片側だけがすり減ってしまったわけです。眼鏡をかけて歩き方が変わったら、減り方が均等になりました。
こんなに見えなかったのに、よくがんばってきたね
藤城 子どものうちから遠近感や奥行きの感覚がなく、見え方に支障があるといろんなところに弊害が起きそうですね。
遠近感がわからず、怖くてジャングルジムで遊べなかった子や、立体感がつかめなくて階段をみんなと同じ速さで降りられなかった子もいます。よく見えないために、動作に制限をかけてしまうようになると、身体機能の発達にも影響が出そうですね。本当に早くに気づいてあげて、その子にあった眼鏡をかけることで苦しさから解放してあげたいですね。
中西 そうですね。大切なのは、読み書きができるようになって勉強ができるようになることではなくて、見え方のせいで人の何倍も苦労していたことが、ラクにできるようになることなんですよね。
検査していると、「こんなに見えていなくて、今までよくがんばってきたね。もし、普通に見えていたら、キミは天才だよね!」と、これまでのがんばりをたたえてあげたくなる子もいます。
視機能を矯正する眼鏡が生活の質を上げ、その子の生活が変わります。自信がついて、自己肯定感も上がることが大切なのです。私たちはそのお手伝いができればと思っています。
もっともっと、藤城先生のような教育現場の先生や保護者の方々に、子どもの眼の視機能と矯正の重要さについて知っていただき、世間一般にも広めていっていただきたいですね。
藤城 はい、微力ながらも広く伝えていきたいと思います。今日はありがとうございました。
ドイツマイスター眼鏡院
住所 : 〒107-0061
東京都港区北青山2-12-27
営業時間 : 11:00〜19:00
定休日 : 第3月曜日(祝日の場合は翌火曜日)
※来店予約制
https://meister-gankyouin.com/
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写真/五十嵐 公 取材・文/仲尾匡代 構成/tobiraco編集室