先を照らす人の話 

入学を控えた子の親に伝えたいこと
〜自閉症の娘の小学校時代を振り返って〜

 
入学後に発達障害であることがわかるケースもじつは少なくありません。とくに知的能力に問題がないと見過ごされてしまいます。

自閉スペクトラム症(当時はアスペルガー症候群)の娘さんをもつ北沢かえるさんは、まさにそのケースです。

幼児期より発音がうまくできない「構音障害」があるため療育に通っていましたが、その時点で自閉スペクトラム症であることはわかりませんでした。知的能力に問題がないため、小学校では通常学級に在籍。学習障害と対人関係の問題から小児精神科医の診察を受けてはじめて自閉スペクトラム症であることがわかりました。

北沢さんに、当時を振り返ってご執筆いただきました。
 

見通しが立てられず、うまく伝えるのが苦手

今振り返ると、小学校入学時に苦労した理由は二つあったように思います。どちらも娘の特性によるものです。
ひとつは、見通しが立てられないことと。もうひとつは、うまく伝えるのが苦手なことです。

「見通しが立てられない」とは、目の前のことにしか気が回らず、その場の雰囲気ではわからないことです。娘はほかの子の行動をマネするのが苦手。経験のないことは先生の説明だけではなかなか理解ができず、クラス全体の行動から取り残されることがしばしばでした。
 
前もって小学校の生活をイメージできる体験をさせ、行動の予想をある程度つけられるようにしておけばよかったと思いました。
 

こうしておけばよかったと思うことを、具体的にいくつか挙げてみます
 

●通学路を一緒に歩く
 
入学前に通学路を子どもと一緒に歩いて、危ないと思う箇所では「ここでは立ち止まって左右を確認」と具体的に注意しておく。朝の登校時刻と夕方の下校時刻、両方の時間帯に歩いてみると、登下校の雰囲気がわかります。

 

 
●学校の下見をしておく
 
慣れない場所では緊張が強くなるので小学校の下見をしておくことをおすすめします。「ここが昇降口」「下駄箱はここ」「トイレはここ」と確認しておくと安心です。

 

下見とともに「上履きを履き替えたら、履いてきた靴をしまう」など今さらと思うことも確認しておきましょう。保育園や幼稚園では先生からのこえかけがありましたが、小学校ではなくなります。

 

●学習用品の使い方を確認
 
学用品は一度家庭で使っておくといいです。体操着の着脱。脱いだ服をたたむ。筆箱や鉛筆、消しゴムを使ってみる。ノートに字を書くときに手で押さえることができるか。こうしたことができずに、娘はまわりから取り残されることがよくありました。

 

「体育」は教室から移動があるので、体操着をすばやく着脱できるように練習しておきましょう。着替えるのに精いっぱいで、気づいたら教室にひとりぼっちということもありました。

 

●ランドセルに出し入れする練習
 
ランドセルに慣れさせませましょう。学校にもっていくものを箱に並べて、ランドセルに入れる準備の練習も。帰宅したらランドセルを必ず戻す場所をつくって、そこへ戻すようにすることもおすすめします。毎日パターンに沿って行動すると、それが習慣となり、忘れ物防止につながります。この習慣を娘につけさせておけばよかったと、今になって思います。

 

先生との連携とフォローが大切
 
入学当初から娘は些細なことでよくケンカをしていました。のちにケンカの原因は「そばで大きい声を出す子に『やめて』と言えなかったから」とわかって驚きました。
 
発達障害の子たちの多くは感覚にズレがあり、他者の想像できないような「イヤなこと」があります。親は経験から、ケンカになる「イヤなこと」が予想できましたが、説明できず黙っていた娘は先生たちから誤解を受けていたと思いました。これを防ぐためには、担任の先生に過去のトラブルの具体例を伝え、トラブル予防と解決の手助けをお願いしましょう。

 

●担任に子どもの特性を伝える
 
気がかりなことや過去のトラブルは担任に具体的に伝えておいた方がいいと思います。私は「うちの子は説明が苦手なので、イヤなこと(大きな声を出す子がそばにいること)をされてもうまく伝えられません。ケンカの際は、できるだけ丁寧に言い分を聞いてください。必ず親に連絡をください」とおねがいをしておき、普段から密に連絡をとるようにしましょう。

 

就学時健診では問題なしとされても、入学後にわかる障害もあります。気がかりなことや以前あったトラブルを具体的に伝えておくと、担任の先生もその点を留意して見守ってくれると思います。

 

●保健室の先生と仲良くなる
 
入学時に挨拶して、見守りを頼みましょう。担任の先生とは別の視点で、娘の様子を観察していただき、気になる点を伝えてもらえたことがとても助かりました。

 

●ほめどころを伝える
 
学校とのかかわり、子どもが喜んだり、やる気を出したりしたときは、連絡帳などでお礼の言葉を伝えると、いいと思います。ほめるコツを共有すると、家でも学校でも気持ちよく過ごせます。
 
最初の1年は試行錯誤の連続です。トラブルが続いても、焦らずに、「学校は安心できる楽しい場所」と思ってくれるように支えてあげましょう。そのためには、学校と連携をとることが大事です。
 

文/北沢かえる イラスト/ますこえり 写真/tobiraco

*この記事は『発達障害 あんしん子育てガイド 幼児から思春期まで』(tobiraco編 小学館)の「小学校入学前に教えておきたいこと」を版元の許可を得て転載しています。

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