小児リハビリの敷居は高く、なかなかみてもらうことができない。相談しづらい。この現状を体当たりで打ち破ったのが、かめきちこと向坂愛理(さきさかあいり)さん。コロナ禍でリハビリを受けられないわが子に胸痛めている親たちに、まっさきにオンラインで手を差し伸べました。そして日本全国をリハビリ行脚。「シンプルに人を救う」がモットーのかめきちさんの教室を訪ねました。

支援の現場の人を訪ねて 

日本一リアルタイムに相談できる小児PT
かめきちさんに聞いたリハビリと魂の話

 
子どもが教えてくれる、体がラクになる「スイッチ」

――――小児PTとは、どのような仕事ですか?
小児PTはリハビリテーション(リハビリ)のひとつ。リハビリには、PT(Physical Therapist=理学療法士)、OT(Occupational Therapist=作業療法士)、ST(Speech-Language-Hearing Therapist=言語聴覚士)があります。私はPTの中でも小児を専門とするPTです。
厳密には、粗大運動(立つ、歩くなど身体の大きな動き)の支援がPTで、微細運動 (手指の動き)がOT、口まわりの支援はSTです。でも、子どもの発達に関していうと、粗大運動だろうが微細運動だろうが、親御さんには関係ありません。私は区別することなく、必要なら手指の動きを見ることもありますし、STの分野でもある摂食の支援も行います。


ご自身が主宰する教室で語る、かめきちさん。

 


リハビリ中のかめきちさん。千葉県柏市の児童発達支援施設「ステップアップスペースなっつ」にてかめリハを行う。写真提供:かめきちさん。
 

――――具体的には、どのようなことをなさっているのですか?

小児PTは、まず親御さんのお話を聞いて、お子さんの様子をしっかり観察することが大切です。
お子さんの顔や目、手足の動きをみるのはもちろんですが、抱き上げたり、私のひざを椅子にして座ってもらったりして、お子さんの体に触れながら反応をみます。

お子さんの反応をみていくうちに、体の軸がわかるようになります。そこで体の軸をうまく支えると、緊張がなくなって、動きやすくなるんです。私たちは体の軸を「スイッチ」と呼んでいます。スイッチが入って動きやすくなったね、ということです。
スイッチを教えてくれるのは、お子さん。「こうするとラクだよ、動きやすいよ」とお子さんが、体で教えてくれます。

 


子どもが楽しいと感じるリハビリが、かめきち流。写真提供:かめきちさん
 

――――リハビリで、大切にしていることは何ですか?
 
リハビリがお子さんにとって楽しい時間だと感じてもらえること、親御さんの不安を少しでも取り除くことですね。お子さんも親御さんも、そして私自身も、明るく楽しく取り組めるリハビリを目指しています。

 
親御さんたちは、不安で、焦っている。
 

 

――――オンラインでリハビリを行うようになったきっかけは?
 
コロナ禍に見舞われるまでは、病院や市の療育施設で働いていました。ところが最初の緊急事態宣言下で、勤務先のリハビリ業務がすべてストップしました。私たちの仕事は現場ありきです。お子さんたちに会えなければ何もできません。リハビリを受けられないお子さんたちは、体が硬くなっていったり、せっかく座れるようになったのに座れなくなったりしてしまいます。そんなわが子を前に不安を感じている親御さんたちを思うと、いてもたってもいられなくなって。なんとかして、おウチでできるリハビリを伝えたい! どうやったら伝えていけるだろうか? と考えたときに、思いついたのがインスタグラムでのライブ配信だったんです。
 

保護者の不安に応えるためインスタグラムでも積極的に発信。かめきちさんのインスタグラムより。
 
 
――――オンラインでは、どのようなリハビリとなるのですか? 
 
最初に親御さんの相談を受けます。
「ハイハイができません」「つかまり立ちできません」「歩けません」「ご飯がうまく食べられません」という相談が多いですね。その様子をオンラインで見せていただき、気づいたことをお伝えします。
 
そして実際にお子さんの体を動かしていただきます。50分間、親御さんと私とでやりとりしてリハビリを行ったあとに、LINEでのサポートを1カ月間行います。
LINEでは、「かめきちさんに教えてもらったこと、やってみました!」と動画が送られてきます。動画を見て「もうちょっと、手は上の位置がいいですね」などとアドバイスをしています。
 

 

――――オンラインでの親御さんたちの反響はいかがですか?
 
オンラインをいざ始めてみると、あれよあれよという間にフォロワーさんの数が増えていきました。皆さん、本当に困っておられたんですね。地方在住で、リハビリを受けたくても受けられないというかた達もいらっしゃいました。
その時につくづくわかったのが、親御さんたちは、こんなにも困っていて、焦っていて、不安な気持ちで毎日SNSを見ているということでした。
 
不安を抱えている親御さんたちに、たくさんの情報を早く、広く伝えたかったので、こまめにライブ配信をしたり、親御さんからのダイレクトメールにはすぐに返信するようにしました。このやりとりを繰り返するうちに、「そうだ! 日本一リアルタイムに相談できる小児PTになろう!」という思いが湧き上がり、勤め先をやめて独立することにしました。

 


フォロワーさんからプレゼントされたハルちゃんを抱く。

 

多くの人に広く発信するのは、インスタグラムとYoutubeです。
1対1のパーソナルなリハビリは「かめリハ」と名づけました。かめリハは、教室でダイレクトに行うリハビリ。ZOOMを使ってオンラインで行うリハビリは「かめサポ」です。今では、海外在住の方がオンラインで「かめサポ」を受けるケースもあります。
 

保護者から届いた感謝のハガキ。写真提供:かめきちさん

 
 
―――コロナがなければ、オンラインもなかったわけですね。
 
コロナ禍は悪いことばかりではなく、数々の素晴らしい出会いもありました。オンラインもそうですが、「シュクレN」という肢体不自由や体幹の弱いお子さん向けの座位保持椅子を作っていらっしゃる村上潤さんとのインスタライブをきっかけに、コラボで全国キャラバンを立ち上げました。各地に出向いてシュクレの座り方をアドバイスしながら、「かめリハ」をやらせてもらっています。

 


全国各地に出向いて「かめリハ」。北海道キャラバンにて、前列左がかめきちさん。村上潤さん(写真右端、眼鏡の男性)とのコラボ。村上さんは独自の理論でラクな姿勢と座り方を提案し、座位保持椅子を開発。シュクレNも村上さんが開発。写真提供:かめきちさん

 


手にしているのは、座位保持用椅子シュクレN 。村上さんとのコラボで活用。写真提供:かめきちさん

 
リハビリで、おじいちゃんに魂が戻ってきた。
 
――――かめきちさんは、そもそも、なぜPTになろうと思われたんでしょうか?
 
大好きだった祖父が脳出血で半身不随になったことがきっかけです。大柄で「ガッハハ!」と笑う豪快そのものだった祖父が、病に倒れてからまるで別人のようになってしまったのです。車椅子の上でしょぼんとしている祖父の姿をみて「おじいちゃんの魂はここにない」と感じました。
 
当時、高校生だった私は「大好きなおじいちゃんのために、私は何もしてあげられない」と、とても情けない気持ちになりました。そんな折に出会ったのが、祖父のところにいらした訪問リハビリの先生です。小柄な女性でしたが、車椅子に座っていた祖父の体を支えて立たせ、和室を歩かせて一周してくれたんです。
 
――――――そこで、初めてリハビリというものをご覧になったんですね。
 
はい、衝撃でした。「こんなもの、できねえよ〜」とぼやきつつも笑いながらリハビリの先生に従っている祖父を見て、「あっ! おじいちゃんに魂が戻ってきた!」と感じました。
 
リハビリを行う仕事を、そこで初めて知って「私も将来、誰かに魂を宿してあげられる仕事に就きたい!」と、その時に思いました。
 
高校生だった私はすさんでいた時期でした。自分のことも、誰のことも大切に思えなかったのです。大好きなおじいちゃんすら大切にできなかった私でした。でも訪問リハビリの先生は、祖父だけでなく私にも魂を宿してくれました。この出会いがあったからこそ、この先の道が開けて、いまの私がいます。
 

 

死を前にして気づいた、自分の人生のタイムリミット。
 
――――――成人ではなく、子どものリハビリを選んだのはなぜですか?
 
最初に勤務した病院で、私は成人のためのリハビリを行なっていました。でも、次第に日本の医療体制に疑問を感じるようになってしまって。病院を辞めて、世界一周の旅に出たんです。そこで目にしたのは戦争や地雷の被害で体が不自由になった子ども達です。
 
この子ども達を見て世の中には不平等で、不合理で、不条理なことがある。そんな不平等さを目の当たりにしたときに私はとても自分の心が苦しくなる人間なんだと感じました。そんな気持ちになったときに気づいたのは、不平等な世の中で唯一平等なのは「人はいつか死ぬ。自分の人生にはタイムリミットがある」ということです。自分のこれからの理学療法士としての人生の時間をどう使おう、どうやって命を燃やしていこう。そう考えた末、小児リハビリの道へ進もうと決意しました。
 
リハビリテーション(Rehabilitation)のリ(Re)には「再び」「戻す」という意味があります。祖父のように病気やケガで損なわれてしまった機能を取り戻すのが成人向けリハビリです。一方、子どもを対象にした小児リハビリは、障害をもって生まれたり、途中から障害を負ったりした子どもが生きていくのに必要な支援の一環です。
 
私は子どもたちと保護者の人生を考えることに、自分の人生の残りの時間を費やしたいと思っています。

 

重度の障害のあるお子さんを見ると
「一生懸命生きてる!」と思う。

 
――――今まで行ってきたリハビリの中で、印象深かったものは?
 
一度だけお金をいただかなかったことがあります。親御さんから「食事の様子を見てもらいたい」と言われていましたが、お子さんの体の突っ張りが強くてリハビリどころではありませんでした。
 
なすすべがなく、体を落ち着かせるのに必死で、「食べる姿を見ること」ができませんでした。親御さんの希望に沿えず、その日はお金をいただくことができませんでした。悔しくて、「本当に申し訳ありません、もう一度、やらせてください」と頭を下げて、再度お越しいただきました。2回目は、筋緊張をとることもできて、食事の様子も見られ、きちんと摂食指導もできて、ほっとしました。私にとって、一生忘れることのできないリハビリです。
 

かめリハの教室で使われている玩具。

 

――――かめきちさんのリハビリを拝見すると、お子さんや親御さんの気持ちに寄りそう様子が、ヒシヒシと伝わってきます。

原点は、きっと私の10代の頃にあると思います。先ほどもお話ししましたが、当時は私のことをだれもわかってくれないという気持ちが強かったのです。それは「わかってほしい」という気持ちの裏返しにほかなりません。わかってほしい、わかってほしい、でも誰もわかってくれない。ずっとそう思っていましたもの。
 
でも、あるとき、ふと、私は相手のことをわかろうとしているのだろうかと思うようになりました。「わかってほしい」ばかりで「わかろう」としていない自分に気づいたのです。
祖父をわかろうとしてくれていたリハビリの先生の影響もあるかもしれません。まず、相手をわかろうとすることが先なんですよね。
 
 
――――お子さんをわかろうとする時、どこをみていますか?
 
変化する過程です。リハビリに訪れた最初のうち、「なんとなく苦しそうだな」とか「緊張しているな」と感じることがよくあります。ところがリハビリが進むうちに、徐々にリラックスしてきます。この変化をみることで、お子さんの「こうするとラク」「これがしたかった」がわかるようになります。
 
逆に私のことを「わかってもらえた」と思うこともあります。特に重度の障害があるお子さんが、私のリハビリを受けて、反応してくれると、それだけで感謝です。私のリハビリに応えて動く小さな手足を見ていると「一生懸命生きている!」と感じるんです。呼吸するのも、手足を動かすのも、一生懸命。「一生懸命生きたい」という姿が、重度のお子さんから伝わってきて、私自身が学ばせてもらっています。
 

iPadを使ってのリハビリ。ラクな姿勢で座れるようになると手を自由に動かせるようになり、自分から興味にあるものに触れるようになる。写真提供:かめきちさん
 
――かめきちさんは「できるとこ探し」がとてもお上手です。
 
親御さんは、お子さんの「できないこと」だけに目が向いて不安になりがちです。私はその子が「できること」に目を向けて、親御さんにお伝えするようにしています。
 
目の動きから、私に興味を持ってくれたのがわかるので「うわあ〜、好奇心が旺盛だね〜!」と話しかけたり、自分から体を動かそうというそぶりには「積極性があるね〜!」と声をかけたり。私の働きかけにお子さんが反応してくれたことが嬉しくて、自然に出てくる言葉でもあるんです。

 

――――今後の活動には、どのような展望をお持ちでしょうか?
 
「かめきち増殖計画」を考えています(笑)。私ひとりでできることには限界があります。ダイレクトにリハビリを行う専門家がもっと増えればいいと願って、「かめスク(かめきちスクール)」講座も始めました。そしてリアルにリハビリを行う「かめリハ」です。「かめスク」の活動には、支援を申し出てくれている企業もあって心強いです。
 
―――今後が楽しみですね。本日はありがとうございました。
 
こちらこそ、ありがとうございました。
 


かめリハの教室。お友達の家に遊びにきたようなフレンドリーな雰囲気。

 


かめリハの教室は、神奈川県武蔵小杉駅前のタワーマンションの一室に。写真はマンションのロビー。
 

取材・文/仲尾匡代 写真/竹花聖美 構成/tobiraco編集室

 

かめきちさんに聞いた椅子選び

頑張らずに座れる椅子を

椅子に座ったときに、緊張していないかの確認を。座ったときにもぞもぞしているようなら、安定していない可能性があります。反り返るようなら、「イヤだよ!」のサインかもしれません。その子が頑張って座るのではなく、リラックスして座れているかが最も重要です。リラックスできると、手を動かして遊んだり、自分の手でスプーンをもって食事ができるようになります。

 
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かめきちさんに相談をしたい、リハビリを受けたいかたは、まずはホームページからお入りください。

こどもリハビリかめきち
https://child-pt.com/

オンラインでの相談「かめサポ」
おウチにいながらLINE電話やZOOMを使って、かめきちさんに相談し、アドバイスを受けられるサービス。50分間の面談ののち、LINEによる相談が1か月受けられます。

【料金】5,500円(税込み)

シュクレNのサイズ選びや上手な座らせ方などの相談も「かめサポ」がおすすめです。

ダイレクトでの面談「かめリハ」
いくつかある教室に出向き、パーソナルでかめきちさんのリハビリをダイレクトに受けられます。首がすわらない、お座り、ハイハイ、つかまり立ち等、身体の運動発達に関わるアドバイスが受けられるコース、摂食・嚥下など、子どもの飲食に関わるアドバイスを受けられるコース、その両方のコースがあります。

【料金】
運動発達コース (50分)
10,000円(税込み)

摂食・嚥下コース(45分)
8,000円(税込み)

運動発達&摂食・嚥下コース(90分)
15,000円(税込み)

【教室場所】
田園調布、武蔵小杉、川崎、柏、

かめきちさんから学びたい!「かめスク」

小児リハビリに関わる職業の人や発達支援に関わっている人、これから関わろうとする人たちに向けて立ち上げた、オンラインで受講できる講座。毎回のテーマに沿って、かめきちさんがわかりやすく説明し。参加希望の月ごとにチケット購入。月額制ではないので、自分の学びたい月に参加ができます。

【料金】
<支援者向け>
講座のみ2,000円  講座+アウトプット3,000円

<学生向け>
講座のみ1,000円  講座+アウトプット+かめたまSlack参加2,500円

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*価格は、2022年10月現在。

小児専門理学療法士(PT=Physical Therapist)
かめきちさん

本名:向坂愛理(さきさかあいり)。

2013年 八千代リハビリテーション学院理学療法学科卒。理学療法士国家資格取得後、脊椎脊髄難病センターにて急性期・回復期・維持期リハビリを行う

2017年 日本の医療制度等に疑問を抱き、世界一周の旅へ。戦争や地雷の被害で体が不自由になった子ども達を見て小児リハビリの道へ進むことを決意。帰国後、訪問リハビリ、こども病院、児童発達支援施設に勤務。新型コロナウイルスによる緊急事態宣言を受け、インスタグラムにて家庭でできるリハビリの情報を発信。オンラインでの相談が大きな反響を呼ぶ。

2021年 「こどもリハビリかめきち」として開業。「日本一リアルタイムに相談できる小児PT」をキャッチフレーズに活躍。直接相談「かめリハ」、オンライン面談「かめサポ」、専門職向けオンライン講座「かめスク」の3つの事業を立ち上げる。これまで敷居の高かった小児リハビリをだれもが受けやすい仕組みをつくった。「かめきち」は高校時代に顔が亀に似ているとつけられたニックネームに由来する。

かめきちさんのホームページ

https://child-pt.com/

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