支援学校の先生に聞く子育てのヒント 

家庭でできる学校生活サポートQ&A
特別支援級の両川先生に聞いてみた

サポートの基本は、子どもが安心できるようにすること。こう話す両川晃子先生は、特別支援教育の専門家であり学校心理士として長年にわたり、保護者から相談を受けてきました。その中から、よくあるケースをアドバイスいただきました。

子どもの安心を最優先したサポートを

Q.忘れ物が多くて、学校からのプリントもランドセルから出せません。

A.集金や返事が必要なプリントを親が見ることができれば、あとは出せなくてもよしとしましょう。

学校から渡されたプリント全部を子どもが見せなくても心配する必要はありません。大事なプリントだけ親が見られればいいのです。集金、物販の注文用紙、出欠をとるプリント。これらが大事なプリントです。「学校に出さないと先生が困る。(または子ども自身が困る)」ことを子どもに説明しましょう。社会のルールを守る1歩としての練習になります。

それでも出せない子に「ちゃんと」「自分で」などと言って突き放したり、黙ってやってあげたりするのではなく「ランドセルを開けて出していい?」と聞いて、子どもの目の前でプリントを出しましょう。ランドセルを開けられるのがイヤな子は自分から出すようになります。どうしても出せない場合はお母さんが取り出すと言うルールを作ってもいいかもしれません。

プリント連絡袋の中に入れて持ち帰るように指導する学校もありますが、袋に入れるという作業が1つ増えることになり、それができない子もいると思います。袋に入っていなくてもくしゃくしゃのプリントでも出せたらほめてくださいね。上手にできなくてもほめられる事はうれしいものです。次も出すようになるかもしれません。出さなくて怒られると、たとえ自分が悪いとはいえイヤなものです。怒られることを恐れて隠したり、怒られることに慣れてしまってなんとも思わなかったりすると思います。プリントを保管する箱を用意して親子で一緒に箱に入れる習慣をつけるなどの工夫はお勧めです。

学校にもっていくものを忘れる子どもには、その物のある場所まで一緒に取りに行くようにしましょう。忘れ物が多い子はしまってある場所を忘れていることが少なくありません。一緒に用意することでしまってある場所を子どもが認識できるようになります。そうしていくうちに成長とともに手伝ってもらわなくても自分で用意できるようになるでしょう。

Q.宿題を1人でやることができません。手伝ったほうがいいでしょうか? 手伝うならどこまで?

A.できた! という達成感を得るための手伝いであれば良いでしょう。一緒に取り組むとその子の課題も見えてきます。

1人でできないのであれば「1人でやりなさい」と突き放さずに手伝うようにしましょう。1人でできない子には、まず宿題を仕上げて提出できたという達成感を経験することが大切です。わからない答えを教えても構いません。宿題を机に出したり筆記用具を渡したり書道を手伝うだけでできると思います。宿題が仕上がっていると学校で認められる機会が増えます。「ほめられてうれしかった」体験が自己肯定感を高めます。逆に宿題をやっていなかったり、答えが間違っていたりしたために大勢の前で叱られると自己肯定感が下がります。学力をつける前に意欲が下がらないように宿題を手伝っても良いのではないでしょうか。

宿題に一緒に取り組むことで、子どもが抱えている課題も見えてきます。宿題の量が多くてできない、問題の意味がわからない、問題の解き方がわからない、などできないのには理由があります。

量が多い時は、答えを教えながら仕上げていくと、最後のほうになると子どもも見通しがつき「もう自分でできるよ」と言えるようになるかもしれません。そうすることで、少しずつ自分1人でできる量が増えていきます。

問題の意味や解き方がわからなくても、家の人が教えてくれるという安心感があれば「宿題ができない不安」が消えていきます。漢字の書き取りの宿題に全く取り組めなかった子どものお母さんが、鉛筆を握る子どもの手を持って毎回一緒に漢字をなぞってあげたら、しばらくして「もう自分でできるよ」と言って1人でやり始めたそうです。

小学3年生くらいになると、自分でやろうという気持ちが芽生えてきます。はじめは1人でできなくても宿題を完成させることを親子で楽しむような気持ちでいられるといいですね。また、こういう時間が子どもとの向き合い方を考える機会になります。

 
Q.「いじめられた」と言って、学校に行くのを嫌がるようになりました。

A.登校を渋る曜日が決まっていませんか? いじめではなく、勉強のつまずきが原因の場合も。

引っ越し、クラス替え、担任が変わったなど環境の変化が原因で登校を渋るようになることがあります。が、ここでは、意外と見落とされがちな学習のつまずきについてお話しします。

行きたくない理由を「〇〇ちゃんがいじめる」などと説明することがあるかもしれません。でも、じつは学習のつまずきが原因の場合も少なくありません。特に低学年のうちは「勉強がわからない」ことを自覚し、それを言葉にするのは難しいものです。また子ども自身も勉強ができるのがあたりまえで、できないのは努力不足と思い込み「勉強がわからない」と言えないのかもしれません。つまずいている状態が続くと保健室で過ごす時間が増えたり、お腹が痛くなったりして学校休みがちになります。

登校を渋る曜日は決まっていませんか? 保健室に行くのはどの授業の時間でしょうか? 国語を休むお子さんは読み書きに困難がある場合もあります。算数の時間はどうでしょうか? 学校によっては個別の配慮の他にも学習支援のサポートがありますので、早めに学校に相談して対応してもらいましょう。その一方で苦手な教科だけに着目するのではなく、子どもが好きなことや夢中になれることを見つけるのも大切。好きなことや夢中になれることが拠り所になり、つらさを乗り越えることができます。登校しぶりが、学習のつまずきではなく、本当にいじめの場合もありますから、まずは先生に学校での様子を注意深く観察してもらいましょう。

いずれにしてもまず家庭でできる事は子どもの安心の担保です。毎朝気持ちよく子どもが登校できるために、子どもが安心できることを探してみましょう。例えば、パンケーキが好きな子は、朝一緒に焼いて食べるのは良いでしょう。抱っこして幼稚園の教室に入る、あるいは手を握って教室に一緒に入り、先生とバトンタッチするなど、子どもが安心できる方法を試してみてください。

Q.支度をするのに時間がかかり、いつも登校に間に合いません。

A. 毎回間に合わないのは、時間の設定に無理があるのではないでしょうか。余裕を持たせた設定、わかりやすい設定に。

まずは子どもが「間に合った」という感覚をもてるような時間設定と手伝いをしましょう。着替えるのが遅くて登校時間に間に合わない時は、間に合うように着替えの手伝いをしてもいいと思いますよ。ただ、着替えの最後は本人が袖を通すなどして「時間内に着替えられた」という達成感を得られるようにするといいですね。たとえ手伝ってもらったとはいえ、着替えにかかる時間の感覚を身をもって覚えられるようになるでしょう。そうしていくうちに、このままでは間に合わないという感覚がわかるようになります。「お母さん手伝って」とヘルプができるようにもなります。

いつまでも手伝わなければならない状況が続いているときは、時間の設定に無理があると考えます。毎回20分遅くなるのなら、着替えのスタートを20分早めにしましょう。その分、早く就寝させ、早く起こすなどスケジュールを見直すと良いですね。この時間内なら自分ができる、できないという見通しを立てることにもつながります。この感覚が成長とともに、予定を立てたり、できること、できないことの判断をしたりする能力を育てます。時間内にできる自分の量を考えられるようになると、社会に出てからもできない事は引き受けないという対応が可能になります。引き受けすぎてどうにもならなくなるという事態の防止にもつながるでしょう。

構成・取材:三邨智恵美  写真:tobiraco 『発達障害 あんしん子育てガイド 幼児から思春期まで』(小学館 tobiraco構成)より抜粋

両川先生は、ICT活用についても発言されています。

読み書きの苦手な子が、ICTを活用して学ぶ意欲と表見の喜びを取り戻す〜インクルーシブ教育に取り組むMIEE教育者による座談会レポート〜

特別支援教育士スーパーバイザー
両川晃子先生

りょうかわ あきこ 特別支援教育士スーパーバイザー。学校心理士スーパーバイザー。信州大学附属病院精神科心理師として勤務する一方、教育関係機関から依頼を受けて研修会の講師や講演などの活動を行っている。児童、保護者、教師、専門家が同席して行う個別指導相談は児童、保護者の心に寄り添った的確にアドバイスをすると定評がある。3人の男子の母。

 

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