先を照らす人の話 

ウチの子の小学生時代(1)
「私の脳みそ取り換えて!」

通り過ぎた今だから見えてきたあの頃のこと。発達障害のわが子にああすればよかった、あれでよかった。子育てを振り返りながら、さまざまな話をお聞きしました。子育てに正解はありませんが、参考にしていただければ幸いです。

ペアトレを受けて関係を取り戻した

竹田恵理子(仮名 東京都 中3女子の母)

入学してみてわかった学習障害

私の娘は、学習障害とADHD (注意欠如・多動性障害)の広汎性発達障害の診断を受けています。小学校は普通学級で、現在は、自分のペースで学習できる私立星槎(せいさ)中学に通っています。

小さい頃から、「抱かれるのを嫌がる」や「何度注意しても1人でどこかへ行ってしまう」、「ごっこ遊びができない」などの気がかりな点はあったのですが、就学時健診の際にも「問題なし」とされ、小学校の普通学級に入学しました。ところが、学習面ですぐにつまずき始めました。例えば、算数の授業で足し算の説明におはじきを使っても、「5」がおはじき5個であると理解できない、つまり数字と数を結びつけて考えることがいつまでもできなかったのです。また、字を書くにも時間がかかり、宿題のプリント1枚終わらせるのに2時間かかることもありました。それでも九九はすぐに覚え、授業中は静かにしていますから、先生も、私も、ただ努力が足りないだけだと誤解して、厳しく勉強させました。いくらやってもできないので、娘は本当につらかったと思います。

空気が読めずに、女子からいじめにあう

診断を受けるきっかけとなったのは、2年生の3学期に学校に呼び出されたことでした。現在住んでいる区が行う実力診断テストの答案を白紙で提出したことが問題になり、学校側から専門家の診断を勧められました。学習障害とADHD、広汎性発達障害の診断が下ったので3年生からは支援員がつき、週3回学習を助けてくれることになりました。

学習面だけでなく、この頃から友人関係でも問題が起きるようになりました。女の子特有の空気を読むことができないのです。

「わからなくてもいい、ニコニコうなずいていればいいんだよ」とアドバイスしたら、友達の悪口を言っている場でうんうんとうなずいて、それが原因でいじめにあったこともありました。こういうことはいくら説明されても娘にはわからないので、「私の脳みそを取り替えて!」と泣かれたこともありました。

娘がかわいいと思えるようになってきた

このままどうなってしまうんだろうという悩みが吹っ切れたきっかけは、「ペアレントトレーニング」の講座を受講したことでした。毎回宿題として、「1日1回でいいから子供をほめよ」と言われましたが、全然できなかったんです。
しかし、「『コップをきちんと置けた』」ことは、倒したり、こぼしたりしなかったということ。置けたら、まずほめてください」と講師から言われて、心がけていくうちに、だんだんと娘が可愛く思えてきました。小さなことかもしれませんが、できなかったことも、ゆっくりですができるようになっていることに気づけたのではないかと思います。

好きなことを好きなだけ、やらせてあげたかった

いま通っている星槎中学は教育特区に指定されているので、教科書通りではない、娘のレベルに合わせたプリントを中心に学習します。あんなに苦手だった漢字も、1から学び直して今は漢検4級を受けることになりました。脳が成長してから受け入れやすくなる知識もあるのだと思います。
振り返ってみると、娘の成長に1番効果的だったのは、中学入学を機に、娘に合った環境が整ったことだと思います。小学校で勉強ができないと怒られて、縮こまって娘の心に自信を取り戻すのは、本当に大変でした。どうか、その子にあった環境でのびのび過ごさせてあげてください。学習面は後から追いつくことはできます。

ウチの子の小学生時代(2) 「休んだら負けだよ」が娘を追い詰めた 

ウチの子の小学生時代(3) 好きなことをやれたから、力を発揮できた

構成:北沢かえる  写真:濱津和貴 『発達障害 あんしん子育てガイド 幼児から思春期まで』(小学館 tobiraco構成)より版元の許可を得て転載しています。