発達を支援する教材・教具
筑波大附属大塚特別支援学校の先生が教える
教材作りで大切にしていること。
佐藤義竹先生は、子どもたちを支援する、さまざまな教材・教具を開発してきました。常に目指しているのは、子どもたちの自立であり、その子らしく生きられることです。
佐藤先生が培ってきた特別支援教育の教材・教具をノウハウとともに紹介した『今すぐ使える!特別支援アイデア教材50』(合同出版)。同書は、特別支援教育にかかわる先生はもちろん、放課後等デイサービスでの支援、家庭での子どもの手助けにも役立つ内容です。
佐藤先生の教材・教具への思いを寄稿していただきました。
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『今すぐ使える!特別支援アイデア教材50』で紹介している教材は、実際に私が担任として学級運営や一人一人への支援・指導をする際に作成し活用した教材を掲載しています。
本書を手にしてくださったみなさんに、教材の作成と活用に関して大切にしたい観点をお伝えしたいと思います。
教材づくり3つのポイント
●教材に支援者の思いや願いが込められているか
児童生徒一人一人の実態や教育的ニーズが多様であるように、教材の一つ一つにも作り手である支援者の多様な思いや願いが反映されています。
たとえば「Aくんが進んで片付けに取り組めるようになってほしい」「Bさんがより楽しく人と関わることができるようになってほしい」「Cくんが友だちと協力して課題に取り組む経験を積み重ねるようにしたい」などのように様々な思い(目標やねらい)があります。目標やねらいの達成に向けて、私たち支援者は工夫や配慮をしながら具体的な教材を作成しているのではないでしょうか。
●同じ教材はない
何人かの先生が作った教材を並べてみれば、どれも同じものはなく、教材の一つ一つにその先生の個性が反映されています。
たとえば「予定表を作りましょう」というテーマでも使用するフォントや色合いの違いなど、多種多様な予定表が作り出されるはずです。また、ある先生が4月に作った教材と10月に作った教材とでは、どことなく雰囲気が異なる場合もあります。日々の支援・指導を行う中で、その子にとってより良い形に洗練されたのかもしれませんし、他の要因があるのかもしれません。支援者間でも、支援者個人内でも作り出される教材は異なるものです。
●どの教材にも改善のヒントが隠されている
私もそうですが、作成した教材教具の半分以上は最初からうまく役割を果たすことはありません。その一方で、あまり機能しなかった教材教具の中にも、その子や授業において役に立った部分はあるはずだと思います。狙い通り機能しなかった教材教具を振返ることはストレスがいるものです。もしかすると、振返る時間が無いくらい忙しいこともあるかもしれません。しかし、良かった部分を見つけヒントにして、そこからより良いものに広げていくことで、より意義のある教材教具へとブラッシュアップされていきます。
一例を挙げましょう。地域の学校の先生と話をした時のことです。その先生はASD傾向の生徒への支援・指導で悩んでいました。その生徒は書字へのこだわりがあり、授業中に何度もパニックを起こして授業が進まなくなってしまうことが何回もあったそうです。そこで先生は同僚と相談しながら、書字へのこだわりが軽減されるように、「生徒が安心して授業に取り組めるように」とワークシートやノートの工夫といった配慮をすることにしました。しかし、忙しい合間を縫って準備した教材も上手く機能せず、作成した教材の活用を止めてしまったことがあったそうです。せっかく準備した教材がその生徒に効果的な役割を果たさなかったことへの不安や先生ご自分自身への苛立ちなど、複雑な気持ちが入り混じっていたと思います。
そのような話を聞いた後に、教材の「どこが悪かったのか」といったネガティブな部分ではなく、先生が「教材を準備しておいて少しでも良かった」と思えるポジティブな部分はどこかを質問を通して振り返りを行いました。最初の数分は良いところを出すことが難しい様子でしたが、少しずつ教材の良かった部分が聞かれるようになるとともに、先生の表情もだんだんと明るくなり、「次は〇〇を工夫してみよう」と前向きな発言が聞かれるようになりました。
このように、少しずつでも良い部分を広げながら、対象とする子供や授業において有効な教材教具になるように改善していく取り組みが大切だと考えます。
「できた」「わかった」体験を積み重ねる支援を
初めて教材教具を活用する際は、教員・支援者のガイドが必要です。それは教材教具に限ったことではなく、私たちの身近な生活においても同様のことだと思います。
たとえば、初めてスマートフォンを手にした時のことを考えてみてください。電源のON/OFF、文字の入力、画面の切り替えなど、人によって様々な使い方に対して説明書や身近な方のガイドが必要なのと同じです。
本書で紹介しているスケジュールカードも最初は私が実際に使い方を示しながら生徒と一緒に活用しました。初めは教員と一緒に使ってみることからスタートし、生徒の様子に応じて少しずつ教員の支援を減らす。最終的には生徒が自分でスケジュールカードを使いながら、安心して見通しをもち学校生活を送ることができるようになりました。
「段階的に支援をすること」は加減が難しく悩むこともあるでしょう。私なりに大切にしたことは、本人が「できた」「わかった」という体験ができることです。目標の達成に向けて急いだり焦ったりすることもあるかもしれませんが、まずは本人の「できた」「わかった」といった前向きな思いを育むことにつながるような支援を積み重ねていきたいものです。
子どもの成長にあわせて、見直す
学期ごと、年度初めと終わりの時期などを比べると、児童生徒一人一人がとても大きく成長したことを実感することと思います。その成長した姿の背景には、児童生徒自身の日々の積み重ねや頑張りに加えて、先生方の支援・指導の積み重ねも多大にあります。先生方も授業づくりや一人一人への支援方法について「考え、実践し、見直す」サイクルをたくさんの場面で行ってきたことがあるのではないでしょうか。教材教具も同様で、「考え、実践し、見直す」サイクルが重要になります。
同じ教材を1年間ずっと使い続けることもありますが、それよりも多少の変化を加えて、形を変えながら活用した教材の方が多いのではないかと思います。また、1年後には教材教具を使わなくても児童生徒が主体的に活動に取り組むことができるようになったといったケースもあるのではないでしょうか。
このように教材教具も児童生徒の学びの姿を踏まえながらPDCA(Plan:目標設定・Do:実行・Check:評価・Action:改善)のサイクルで柔軟に運用していくことが大切だと考えます。PDCAのサイクルを通して、一つの教材教具がより良いものに改善されたり、一つの教材教具のアイデアからさらに複数の物が作り出されたりと、たくさんの拡がりをもたらしてくれます。
完成した書籍に目を向けるたびに、紹介している教材一つ一つの背景が思い出されます。
その時に自分なりに精一杯考えて作成・活用した教材も、いま振り返ると「こんな工夫があれば良かった」など、改善点や次に向けたステップがいくつも浮かんできます。本書を手に取っていただいたみなさんも、紹介している教材を参考にしていただきながらも、ぜひ、いま関りのあるお子さんに応じて分かりやすく、活用しやすい教材に作り変えることを大切にしてください。
本書が読者の皆さんにとって少しでも参考になれば幸いです。
筑波大学附属大塚特別支援学校
佐藤義竹
『今すぐ使える!特別支援アイデア教材50』の販売は、こちら。